review 0060 : サクラ・マグナ / SAKURA MAGNA
【香水名】 サクラ・マグナ / SAKURA MAGNA
【ブランド名】リベルタ パフューム / LIBERTA perfume
【発売年】2021年3月
【パフューマー】山根 大輝 / YAMANE Daiki 、 武宮志昌 / TAKEMIYA Yukimasa 、西山駿也 / NISHIYAMA Shunya
【香りのノート】フローラル
トップノート:ジャスミンサンバック、アーモンド、イランイラン
ハートノート:ジャスミンアブソリュート、バイオレット、アニス
ラストノート:イリスアブソリュート、バニラアブソリュート、サンダルウッド
【レビュー対象商品】オードパルファム 50ml 17,980円(本体価格)
※レビュアーが実際に試香した製品のみ記載しています。価格はレビュー当時のものです。
【オフィシャルサイト】
https://liberta-perfume.com/shop/products/sakura_magna
2019年早春、PARFUM SATORI FRAGRANCE SCHOOL のパーティでお会いした山根 大輝 氏は、自身のフレグランスブランド、Bespoke Scent Society(ビスポーク セント ソサエティ)の準備中でした。同年7月からD2Cオーダーメイドフレグランスのサービスを開始し、インターネット上のWEBプロファイリングと、リアルでカウンセリングを行うトランクショーの開催で、『自分のためだけの香りを身に纏う』という文化を広める活動を実行し始めます。蝶ネクタイを締めた山猫のマークが印象的なこのブランドは静かに成長を続けていきます。やがて、オーダー香水を求める顧客のデータ10万件と、さらに進化したWEBプロファイリングのアルゴリズムを両翼に、新しい仲間を得て充実したボディを得て、2020年5月31日にオーダーメイド香水ブランド LIBERTA perfume (リベルタ パフューム) として、飛び立ちました。テクノロジーを活用した誰でも気軽に試せるオンライン香水診断と購入しやすい商品構成で、香水に興味を持つ、主に若い方達からの支持を得ていきます。
そしてこの度、2021年の春、初めてのプレタポルテ(=完成品)ラインとして、LIBERATION COLLECTION が発表されました。LIBERATION(リバレイション=解放)と言うタイトルから、新しい挑戦への気概に富んでいることがわかります。3月3日に渋谷のインテリアブランド、TOM DIXONで開催された発表会に参加して感じたその成長の様子は、1910~20年代ヨーロッパの多くの服飾デザイナーが注文服でブランドをスタートし、評判を得て高級既成服を手がけるようになっていく姿と重なります。LIBERATION COLLECTIONは「香りのないものに、香りを与える」シリーズとのこと。記念すべき第1作目の香りは 『サクラ・マグナ』 。テーマは「凛と美しく悠々と咲き誇る『桜』」です。
最初にムエットで香りを試した時の印象は液体の色のイメージも相俟って、グラスを口元に近づけた時に感じるキールロワイヤルの香り。シャンパーニュとクレーム ドゥ カシス(クロスグリのリキュール)のカクテルの華やかさを思わせ、ゾクゾクするような期待感が湧き上がります。ややあって、『センセーション / ジル サンダー』に感じるとろけるようなやさしいオリエンタル香と、『オンブルローズ / ジャンーシャルル・ブロッソー』のパウダリーなイリス香を感じ、独立系フレグランスブランドとしての思いが深く込められた香水であっても、ファッションフレグランスの持つ纏いやすさがあります(実際に肌にのせると、この香りのファセットは30分くらい経過した後に現れます)。この辺りは、フレグランスマーケットをしっかりリサーチした証であり、かつ、ファッションフレグランスしか知らない方への程よいアプローチでもあります。
トップノートは、早朝に高い枝の先端に咲いた桜の花を撫でて通り過ぎていく、桜の花の香りを含んだ風の香りの様なフローラルノート。ミドルになると太陽の光で温められた空気が桜の香りで染められたように、鳥達が大好きな桜蜜のような香りが現れます。ラストノートは妖艶な夜桜をイメージする甘い香りの奥に、私の祖母が使っていた煉り頬紅のようなファッティな香りが潜んでいます。巨大な桜の木に引き寄せられた女性の香りでしょうか。『サクラ・マグナ』、これはきっと現実には存在しない夢想の桜の香り。山奥の誰も見たことのない桜の大木が花を咲かせ、満開の時期に漂わせる1日の香りの移り変わりを香水瓶に閉じ込めた様です。
パーソナライズというアプローチで香りと纏う人への責任を重視して積み重ねた経験を活かした上で、信じるところに従い採算を横に置いて高品質の香料を使用した『サクラ・マグナ』。ジャスミンアブソリュートとイリスアブソリュートと聞いて人々が想像するよくあるフローラルノートで終わらせず、魅力的な植物としてのバニラアブソリュートを用いることで軽やかにしつつも更なるエネルギーを与え、かえって龍に虎が加わったような御し難い勢いを香りにもたらすことに成功したのは、山根氏ならではのバランス感覚と調香テクニックでしょう。それがとても面白い。若者(ここでは20代としましょう)はどんどん減少し、もう現代の日本の人口構成においてはマイノリティでもある彼らには、これまでの私たち世代の予定調和など気にせずに、目を開かせてくれるような香りをどんどん発表してほしい。
リベルタパフュームの「香りのないものに、香りを与える」シリーズの次回作にも、大いに期待しています。
レビュアー 地引 由美 Yumi JIBIKI 2021年3月