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review 0063 : 3-17 / çanoma(サノマ)

【香水名】3-17 早蕨 / 3-17
【ブランド名】サノマ / çanoma
【発売年】2020年
【パフューマー】ジャン=ミッシェル・デュリエ / Jean-Michel Duriez
【香りのノート】ウッディ アロマティック フローラル
ラベンダー、セージ、青リンゴ、カーネーション、松、インセンス、シダーウッド、ベチバー、サンダルウッド、ムスク
【レビュー対象商品】オードトワレ 100ml / 19,250円 30ml / 8,250円(総額表示)
※レビュアーが実際に試香した製品のみ記載しています。価格はレビュー当時のものです。
【オフィシャルサイト】
https://www.instagram.com/canoma_parfum/

 「ああ、今日はサノマ日和だわ」思わず声に出た。çanoma(サノマ)の香水『3-17』を纏って出かけたある日、梅雨入り宣言が出された後によくある見事な晴天の下、雨に洗われた透明な空気を動かす強めの風が吹き渡る都会の高台で。
 コロナ禍にあった昨年、4種の香水のラインナップで日本デビューしたçanoma(サノマ)。21世紀が始まって何年かした頃、フレグランスマーケットには中東の人々の好む香水が溢れ出していた。売れる製品が市場を席巻するのはどの業種でも起こりうることで、問題はそれが『私たち』が纏いたい香りではなかったこと。そして当時「日本人好み」という惹句が付きで輸入される多くの香水は、大人が纏うには若いというか、子供っぽい香りであったこと。そのような時期を経験した後、日本人が纏うべき「良い香水」を生み出すために、渡辺裕太氏はパリで香水のクリエーションをスタートします。調香を担当するのは、ジャン パトゥ、ロシャス、ヨージ ヤマモトなどで腕を振るったフランス人パフューマーのジャン=ミッシェル・デュリエ氏。何度かお会いしたことのある彼はいつも穏やかで、日本の化粧品会社とも仕事をしたことがある経験から、日本人の香りの嗜好にも理解がある。パリで訪問した、教会のすぐ横のデュリエ氏のアトリエは、香りの創作のエネルギーに満ちていてとても素敵だった。

 çanoma(サノマ)の香水名はハイフンで繋がれた数字の組み合わせである。ロマンティックな絵画のタイトル、または、ヒット曲の題名の様な香水名に慣れた目には少し堅い感じも受けるが『3-17』であれば『 3 』という香りの『 17 』番目のトライアルで完成した香水、ということを表している。番号にしたその理由を知れば、数字は意味をもち、香りを纏う人に対して誠実でありたいという思いからであることがわかる。様々な事情で、例えばIFRA等による新しい香料の安全規制の発表があると、それまでの香料が使用できなくなることがあり、必然的にその香水の処方も変更しなければならなくなる。その際にパフューマーは最新の注意を払って、オリジナルの香りと差異が無いように調整するが、微妙なニュアンスは変わったりして、その香水を愛用している人ほど変化を敏感に察知し違和感を覚えてしまう。もし処方を変更した時はハイフン以下の番号を変更することで、それを明らかにするということ。そして、テクニカルな思考からの番号での名前だけでなく、情緒面から香りの世界を紐解くためのきっかけとなる、それぞれの香水に繋がる源氏香の香の図、そして香の名が箱には記されている。

 çanoma(サノマ)の香りの中で私が最も愛用しているのは『3-17』 で、早蕨(さわらび)という香の図が添えられている。実は個人的に、とてもショッキングだったこの香水。何故なら初めて嗅いだ瞬間、前に勤務していた日本の香水輸入代理店が発売した「日本人のために作った香水」にとてもよく似ていると感じたから。それは多くの方に好まれて予想以上に売れた香水だったが、スプレー不良と液体内の色素の凝固により、あっという間に製造中止となってしまった。20年近く経った後に、日本人のための香水を作ろうとしている若きクリエイターの手から似た雰囲気を持つ香りが提案されたことが非常に面白いと思うと共に、混乱した。Fragranticaにも掲載されていないその香水を探し出して来て比較してみれば、似ていると思わせたのはフックとなる青リンゴ調の香りだけで、その後の香りの展開は全く異なることがわかったが。
 『3-17』で青リンゴの周囲に感じるのはアロマティックなハーブの持つ生命感。フローラルというよりスパイシーなテイストのカーネーションのアクセントを感じつついると、早朝に皇居前広場の黒松の間を吹き渡る風の様な香りが現れる。女性ファンも男性の愛好者も多い『3-17』は、フルーティなトップノートに注目されがちだが、その魅力は動きのある、軽やかでモダンで生き生きとした斬新なウッディノートにあると感じる。トップノートからラストノートまで、全体的に透明感や、軽やかに吹き渡る風の様な感覚を覚える理由について聞いてみると渡辺氏は「『3-17』のウッディノートは、重さと貫禄を感じさせるレジン系の香料で表現せず、敢えてシダー(針葉樹)調の香料を取り入れたこと」とのこと。そしてチェレスタの響きのような、香りの持つリズムの良さは、調香のテクニックだろうか。デュリエ氏にもお伺いしてみたい。

 で。冒頭に戻る。昨年の秋から、冬、春、新緑の季節、梅雨と約8ヶ月の間、『3-17』を愛用して来た。寒い冬は、シン、と静かに鮮烈に香り、春はまさに早蕨の緑色を感じさせ、今、梅雨の季節にもこの香りを纏えば肌に張り付く湿度は振り落とされて、日々を彩る大切な香水となっている。渡辺氏に倣って良い香水とは、と考えてみると、良い香りであると同時に、気持ちにも良い作用を及ぼす香水であり、心を、時空を超えたどこかへ連れ去ってくれるような香水であること。それはまだ見ぬ新しい世界かも知れないし、懐かしい郷愁の世界かも知れない。『3-17』を纏った時、私の心は「晴れた空の下、早朝の公園でシャボン玉を飛ばす恐れも憂いも持たない小学生」の頃に攫われて行き、背後にはシューマンのピアノ局、子供の情景が流れる。それはノスタルジーな穏やかな世界かと思いきや、逆で、なんでも出来る!という挑戦する気持ちが高まっていく。

 先日、渡辺氏は「香りの創作とは…新しい香りを追い求めることは、知的好奇心を追求することかも」と語っていた。膨大な読書家であり、学生時代は陸上競技でコンマ1秒の世界を追及をしてきた氏の、思考と行動という強靭な両輪から生み出されるこれからのçanoma(サノマ)の香水も、ますます愉しみで。
  2018年11月。「日本人のための香水を作りたいんですよね。調香師はジャン=ミッシェルです」と、話を聞かせて頂き。2019年11月には、パリにて活動の様子をお聞きし。2020年11月。GINZA SIX のフレグランスイベント La touche finale parfumée(ラ トゥーシュ フィナル パフュメ)で鮮やかに東京にデビュー。今年の11月にも何か素敵なことがあるかも、と密かに大きな期待をしている。

                                                   レビュアー 地引 由美 Yumi JIBIKI 2021年6月

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