review 0064 : ソルテッラ / SOLTERRA
【香水名】 ソル テッラ / SOLTERRA
【ブランド名】リベルタ パフューム / LIBERTA PERFUME
【発売年】2021年6月
【パフューマー】山根 大輝 / YAMANE Daiki、、武宮 志昌 / TAKEMIYA Yukimasa
【香りのノート】シトラス
トップノート:オレンジビガラード、グレープフルーツ、ガルバナム
ハートノート:ネロリ、オスマンサス(金木犀)アブソリュート、オレンジフラワー、チュベローズ
ラストノート:オリバナム、ベチバー、シダーウッド
【レビュー対象商品】オードパルファム 50ml 17,578円(総額表示)
※レビュアーが実際に試香した製品のみ記載しています。価格はレビュー当時のものです。
【オフィシャルサイト】
https://liberta-perfume.com/shop/products/solterra
2020年5月31日にデビューしたオーダーメイド香水ブランド LIBERTA PERFUME (リベルタ パフューム) 。前身のBespoke Scent Sciety(ビスポーク セント ソサイエティ)で蓄積した経験を活かし「香りの民主化を実現するため」にFounder&CEOの山根 大輝 氏によって創設され、WEBオーダーだけでなく、リアルイベントでもその魅力に触れる方が増えています。2021年は新しい挑戦として、プレタポルテラインの「LIBERATION(リバレイション)」コレクションが発表されました。プレタポルテとは、prêt-à-porter=そのまますぐに纏える様に準備された、という意味で、オーダー品に勝るとも劣らない様に丁寧に創られたフレグランスラインです。私のパーソナルフレグランス診断を受けにいらっしゃる方も(特にお忙しい男性に多いのですが)「オーダーの良さは理解しているが、オーダーのための時間がない」と、敢えて服も香りもプレタポルテを選ばれる方の数は少なくありません。
今年の「LIBERATION(リバレイション)」コレクションのテーマは「香りのないものに香りを与える」シリーズで、桜の花をテーマにした春の『サクラマグナ』に続き、夏の香りとしてひまわりを選び発表された香りが、この『ソルテッラ』です。
『ソルテッラ』とはラテン語の、SOL=太陽、TERRA=大地、からのネーミング。夏の陽射しを受けて大地から真っ直ぐに伸びるひまわりの花に、もし香りがあったら?との想いから生まれたフレグランスです。6月7日の発表会でこの香りを最初に試香した時にまず、火が燃えるような「烈しさ」を受け止めました。すぐに続く山椒のようなニュアンスのスパイシー感に、日陰に入った途端に得る心地よい冷感を感じます。ミドルノートは、陳皮を思わせる密度の濃いオレンジビガラードの香りが華やかなネロリに引き継がれつつ、オレンジフラワーの軽やかさがふわりとしたやさしさを感じさせます。かと思えば、濃暗緑色のオスマンサスアブソリュートの瓶の蓋を取った時のような厚みのある品格とレザー感が出現し、重なるようにチュベローズのグリーン感、さらにレモンを想起させる上質なオリバナムの持つ、ウッディでスパイシーな芳香へ。移り変わる鮮やかで複雑なコントラストを経て肌に留まるのは意外なほどに品のある香りです。
この『ソルテッラ』の香りには、まるでひまわりのように真っ直ぐに、強く、決して下を向かない強い眼差しが思い浮かびます。それは映画史に残る名作「ひまわり(Girasoil)」でソフィア・ローレンが演じた主人公ジョバンナの姿に重なり、この夏は、強さ、逞しさ、美しさを纏うような気持ちで日々『ソルテッラ』をスプレーする様になりました。
また、調香と香水の歴史の多くを学ばれ取り入れた成果でしょうか、『ソルテッラ』からは同時に、90年代のパーフェクトな男性像を表現するメンズフレグランスの正統であるスパイシーシトラスの系譜を感じます。『ソルテッラ』は香水の初心者でも纏いやすい、という意見も多くありますが、オスマンサスの下支えによる華やかな香りは、実は冬のタキシードにもよく似合います。
6月中旬には、山根大輝氏とコーヒーを飲みながらお話しさせて頂く機会を得ました。お母様がハーブの有資格者で、幼い頃から植物の香りには親しんでいたとのこと。PARFUM SATORI フレグランススクールでは、調香技術の基礎と自由な発想でクリエーションしても良いのだ、ということを学べたことに感謝している。料理は味。香水は香り。例えるなら、欧米の香水はフレンチの手法のようにソースを重ねていく。日本で生活に馴染む香り香水を生み出すなら、素材の良さを最大限活かしながら、調和を生み出すような香りで整えていく手法になる。それは日本料理でいうところのダシやツマのような素材と一緒に香りをクリエーションすることになる。大好きな洋服の、特にスーツの仕立ての際のテーラーメイドのミリ単位の調整を香りにも持ち込みながら、今回の『ソルテッラ』にベストな香りを追求したところ、天然香料が80%を占める処方になってしまったと微笑まれていました。そして軽い会話の中にも、現在のフレグランスを取り巻く状況について冷静に分析し、より良くしていきたいという思いが端々から伝わってきました。
徒然草に「家の作りやうは、夏をむねとすべし」という一節があります。「暑き此(ころ)、わろき住居は堪え難き事なり」と続きます。これは香水にも当てはまると思っていて、厳しい日本の夏に好んで纏いたいと思える香水は、一年中愛することが出来る香りです。現に、急に秋めいてきた今朝も『ソルテッラ』を手に取りスプレーしました。そして同時に日本以外でも、例えば夏のフランスでも『ソルテッラ』を纏ってみたいと強く思います。
トップノートに感じた烈しさ、その『烈』という漢字には元来「輝かしい」という意味があります。スッと逞しい茎を伸ばし太陽に向かうひまわり、押し寄せるような重層的なひまわりの海、どちらの表情も持つ『ソルテッラ』の香りには、季節ごとにまだまだ魅力的な発見がありそうです。
レビュアー 地引 由美 Yumi JIBIKI 2021年8月