review 0065 : / アーム デュ クール / ÂME DU CŒUR
【香水名】アーム デュ クール / ÂME DU CŒUR
【ブランド名】リキッド イマジネール / LIQUIDES IMAGINAIRES
【発売年】2024年
【パフューマー】ナデージュ・ル・ガランテゼック(ジボダン) / Nadège Le Garlantezec
【香りのノート】フルーティオリエンタル
トップノート:マンダリン、ブラッドオレンジ、グレープフルーツ、ジンジャー、ピンクペッパー、ブラックペッパー、カルダモン、サイプレス、エレミ、
ハートノート:ココア、ガイアックウッド、ポマローズ(※ジボダン社で開発されたベイクドアップルノート)
ラストノート:トンカビーン、バニリン、ヴェチバー、シダーウッド、アキガラウッド
【レビュー対象商品】オードパルファン 100ml 28,600円(総額表示)
※レビュアーが実際に試香した製品のみ記載しています。価格はレビュー当時のものです。
【オフィシャルサイト】
https://arteau.jp/collections/liquides-imaginaires/products/ame-du-coeur
リキッドイマジネールの香水を初めて見たのは、今はなきパリのル グラン ミュゼ デュ パルファンのミュージアムショップでした。それはたしか、2017年のこと。ボトルデザインもサイズの比率が今とは少し異なっていましたが、香水文化を伝えるためにパリに新しく出来た美しい香水博物館の明るい白い壁を背景にして並ぶボトルの、カラフルかつシンプルで斬新な姿に驚き、同時にこのブランドが大胆に挑戦する勢いを感じたことを覚えています。ただその時は香りをじっくり試す時間がなく、いくつかをムエットに香りをのせて持ち帰っただけでした。その後、時々ニュースは目にしていましたが、なかなかお近づきになる機会がありませんでした。が、パリで知った翌年の2018年11月、伊勢丹 新宿店で開催された サロン ド パルファン でこの印象的なボトルに再会しました。
その後はいろいろな機会に、このブランドの中でも人気の香水『ドン ローザ』を2回購入しました。けれど、2回とも香りを気に入った友人に持って行かれてしまい手元にありません。人気パフューマー、ソニア・コンスタンによる、赤い果実が沈んだロゼ シャンパーニュのブリリアントなノートにスモーキーなテイストを帯びたウッディなラスト。この香りは、リキッド イマジネールというブランドについて何も知らなくても、魅力的な香りです。
ブランド名の リキッド イマジネール=想像の物語をとじ込めた液体、という意味になります。地上の人間と天上の神をつなぐ香煙に端を発した、香水の持つ神聖な側面を感じさせるコンセプトを現代のテクニックで実現したこのブランドの香水には、調香の絶妙なバランスにより纏う人が持つ想像力の限界を突破させるような香りの力があります。一つのテーマに基づいた三部作の香りとして発表されてきたトリロジーシリーズには、神話の世界や豊かな空想上のテーマも多いのですが、そこにふんわりとした少女漫画的成分はなく、芯の通ったあくまで骨太な表現がなされています。
魂の三部作、として発表された今回の『アーム デュ クール』。スパイシーでグルマンなノートにのせて、生きている証としての心、そこから迸る人を愛するという抗えない情熱、をテーマにしています。
肌にスプレーした瞬間、弾けるピンクペッパーの香りの衝撃は、一目惚れの雷に打たれたようです。続くブラッドオレンジやグレープフルーツはリゾートの朝食のよく冷えた果実のクール感を伴っています。この辺りのミドルノートまでは、フランスで伝統的に愛されてきた香りの処方、カネル – オレンジ(シナモンとオレンジ)を感じます。そして、ミドルノートからは、アダムとイブがエデンの園で蛇に唆されてリンゴを盗んで食べたことから愛の象徴となったリンゴの香りが。ポマローズ(※ジボダン社で開発されたベイクドアップルノート)で表現されるこの香りはずっと嗅いでいたくなります。数々の著名なシェフとコラボレーションした後に、自身のオーガニックレストランをオープンし、カクテルブランドやジェラート専門店もプロデュースしているフィリップ・ディ・メオが関わる美味しさたっぷりのグルマンノートに、思わず季節外れのタルトタタンが欲しくなりました。濃縮されたリンゴの甘み、ほんのり焦げたキャラメリゼの魅惑。鼻腔から口中へと。ねっとりしたリンゴの舌触りの感触まで覚える香り。五感にその感覚を生き生きと蘇らせるのが芸術作品だとしたら、この『アーム デュ クール』は十分にその条件を満たしています。
とにかく、リキッドイマジネールの香水といえば第一印象で、まずそのボトルカラーに雄弁に語りかけられる気がします。キューピッドの矢に射抜かれた心臓から溢れ出る恋情という名の見えない赤い血。それがこの『アーム デュ クール』の色ではないかと思うのです。
レビュアー 地引 由美 Yumi JIBIKI 2024年5月