review 0066 : レイン ブロッサム / RAIN BLOSSOM

【香水名】レイン ブロッサム / RAIN BLOSSOM
【ブランド名】リベルタ パフューム / LIBERTA PERFUME
【発売年】2024年6月15日
【香りのノート】フロリエンタル
トップノート：ペトリコール
ハートノート：ヴァイオレットリーフ、シクラメン、チュベローズ
ラストノート：インセンス、ドライアンバー、サンダルウッド
【レビュー対象商品】オードパルファム　50ml　18,000円（税込）
※レビュアーが実際に試香した製品のみ記載しています。価格はレビュー当時のものです。
【オフィシャルサイト】
https://liberta-perfume.com/lp?u=rainblossom

「香りの民主化」というスローガンを掲げ、常に新しいチャレンジをする日本発のパフューマリー、リベルタパフューム。2020年のスタート時には、膨大なデータから構築されたアルゴリズムで最適の結果が導き出される香り診断を、公式サイトで楽しまれた方も多いのではないでしょうか。2021年からは プレタポルテコレクション でブランドの魅力をさらに開花させ、調香師と一緒に理想の香りを創るオンラインフルオーダーを2022年から展開しています。

今回の新作は「香りのないものに香りを与える」ことがテーマの、リバレイション コレクション から3年ぶりとなる新作です。雨の中に咲く紫陽花のイメージを中心に据え、花の香りというよりも紫陽花のある情景、それは紫陽花が咲いていてしとしとと雨が降っている、そして雨の霞の奥の方には古いお寺が見える。その様なみずみずしさとお寺のもつ静謐なイメージを描き出す挑戦をされました。

トップノートのペトリコール、これは雨の降り始めを表現する匂いですが、このパートには リベルタパフューム のブランド独自の レインアコード を使用しています（レインアコードは、フルオーダーのベースとしてもセレクトできるそうです）。アスファルトやコンクリートの硬質さを思わせるブラックペッパーやジュニパーベリーのややシャープなテイストに続き、アーシーかつフローラルな表情のために、ヴァイオレットリーフやチュベローズを選び、雨に濡れた地面から生えている紫陽花の花の姿を表現しています。

そして今回の レイン ブロッサム のクリエイションにおけるもう一つのチャレンジは、香水の歴史で主要な意味を持つ オリエンタルノート に関してのもので、西洋から見たオリエント、それは往々にしてインドであったり、中国の西方寄りであったりすることが多く、なかなか私たち、日本のところまで思いが至しきれていない、という違和感が山根さんにはあったそうです。現在の香水業界では『オリエンタルノート』という呼称が避けられつつあり、アンバリーと言い換える風潮に逆行するかもしれませんが、オリエンタルの地に住んでいる私たちであるからこそ出来るのが、日出る国からのオリエントの再提案ではないか、という考えには深く首肯します。ウォータリーなフローラル感と若干のフルーティさも持つシクラメンをチュべローズと合わせたほんの少し南国調の趣あるフローラルオリエンタル。そしてインセンスやドライアンバーで古寺の持つオリエンタルな雰囲気へと。二段構えのオリエンタルが、雨の雰囲気を表現したという香水の液体のブルーグレーに染められた絵巻物を広げるように、展開していきます。テーマは『潤い』なのに、香りはどちらかというと『ドライ』。高音多湿な日本の夏に心地よく寄り添う様にという山根さんの願いが見事に叶っています。

今、リベルタパフューム中目黒店の店内には西洋アジサイに比べて小ぶりな、日本原産のガクアジサイが飾られています。10世紀ごろ世界に広まっていった日本の紫陽花。その後、逆輸入されてきましたが、私たちの香水も同じく、日本で生まれて世界の方にたくさん試して頂いて、また日本でも愛される、その様になりたいともおっしゃっていました。

個人的な香水の好みに関して言えば粉う方なきオールドスクールの私は、トップのペトリコールのニュアンスに一瞬身構えてしてしまいますが、この緊張感に現代性を感じます。同時に、香道で香りを分類する指標の一つ、の五味（ごみ）の中の『辛（からい）』を感じ取ってしまいますが、レインベース には丁子（クローブ）も含まれているからなのですね。オリエンタルな香りこそ夏に纏いたい、という思いもありますが、従来のオリエンタルノートの香水は、近年の厳しい夏には重過ぎると感じます。この レイン ブロッサム は、雨の情景を描きつつも、現実の梅雨の時期の体に悪そうな重い湿気を払ってくれるような心地よさがあります。それは 香の十徳で説かれる「心身を清浄にし」「よく汚穢を除く」を体感させてくれる様な、日本の風土と季節に合ったよき香りの調合であると思います。そしてほのかな甘さと葡萄の葉のように感じるグリーン香のせいか、または香水の液体から連想してしまう薄青紫色のイメージのせいか、サクマ式ドロップスの缶の中から大好きなブドウ味を探していた子供の頃のことが心に浮かび、少し前の時代の夏休みを思うノスタルジックな感情も湧いてくるのです。

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　地引 由美

レインブロッサムの新発売と同時に、過去のリバレイション コレクション４作品と合わせた限定品も発売となります。
LIBERATION　BOX（リバレイションボックス）
（レインブロッサムEDP、サクラマグナEDP、ソルテッラEDP、フラクタスEDP、ニヴァリスEDP）
■ サイズ　各8ml×5本
■ 価格　　22,000円（税込）
■ 発売日　2024年6月15日　※数量限定発売