review 0051 : ジャスマン ドゥ ペイ/ JASMIN DE PAYS
【香水名】ジャスマン ドゥ ペイ/ JASMIN DE PAYS
【ブランド名】ペリス モンテカルロ / PERRIS MONTE CARLO
【発売年】2019年
【パフューマー】ジャン=クロード・エレナ /Jean-Claude Ellena
【香りのノート】フローラル
【キーとなる香り】
ジャスミンアブソリュート、クローブ、マリーゴールド、ムスク
【レビュー対象商品】
オードパルファム 100ml ¥22,000(本体価格)
※レビュアーが実際に試香した製品のみ記載しています。価格はレビュー当時のものです。
【オフィシャルサイト】
PERRIS MONTE CARLO(英語) https://perrismontecarlo.com/
NOSE SHOP https://noseshop.jp/
ペリス モンテカルロは、何世代にも渡って化粧品ビジネスを運営してきたイタリアの名家ペリス家が、モナコ公国に移転した後、2012年に創設したブランドです。比較的新しいブランドですが、名家グループが持つ原料産地とのコネクションや一族の門外不出とされた知見をベースに、天然素材が持つ美に焦点を当てて、1つの素材を主人公としたラインアップで展開しています。お気に入りの花や素材がある方には、香りは選びやすくなりますし、またその素材を余すことなく楽しめる、というのが特徴です。ブランドが掲げる理想は、“香水の原点回帰。かつて天然の香水原料が主役だった時代。香水の原点とも究極とも呼べるような真に贅沢な作品を、最高の天然原料を用いて、現代の最新のナレッジでこの世に蘇られえること。伝統と革新の完璧なバランス、-最高級の自然香料の真なる美―” であると謳っています。
現在ブランドには5つのラインナップがありますが、『ジャスマン ドゥ ペイ(ジャスミンの国)』、というネーミングのこの香りは、グラースの香り(Les Parfums de Grasse)シリーズの1つです。ラインナップによって色が異なるボトルも、このシリーズでは白い陶器に金模様とゴールドプレート、デザインそのものはシンプルですが、とても高級感と存在感があります。2018年にユネスコの世界文化遺産に登録された、香水のメッカともいわれるフランス、グラースに捧げる香りとして、調香はジャン=クロード・エレナが担当しています。彼の輝かしい調香師としてのキャリアの原点は、ジャスミンやバラの花摘みをして過ごした幼少期にあることはよく知られていますが、グラースの人々や香水業界の念願であったグラースの世界遺産登録を受けて、彼自身もこのシリーズには特別な想いがあるのではないか、と思っています。
『ジャスマン ドゥ ペイ(ジャスミンの国)』はシングルフローラルノートですので、香りの変化はあまりありません。ですが、トップノートは、摘みたてのややグリーン調のフレッシュさがあり、時間とともに、香りは丸みを帯びてジャスミンの柔らかなクリーミーさが出てきます。朝摘みの真っ白な花びらが、少しずつ黄色味がかっていくような印象です。グラースのジャスミン畑で花摘みをした経験がありますが、まさにあの時の香り、驚くほど生花を手にしているような感じです。ジャスミン特有の小さな花の繊細さと、生きている生花から立ち上がる力強い芳香が、素晴らしいバランスで表現されています。この香りに関しては、素晴らしいバランスで調香した、というよりは、摘みたてのジャスミンの香りを精巧に再現している、といった方が正しいのかもしれません。
しかし、単に香りを再現しているだけではない点に、非常に高い芸術性があります。それは、この香りを嗅ぐと、私が見たグラースのジャスミン畑の背景が脳裏に広がるにところにあります。遠くから見ると、まるで点画のように、一面に咲いた星のような白い花と、その美しさを際立たせる緑の葉、盆地に広がるグラースの山の稜線を思い出すことができます。そして、お花畑で過ごした宝物のような時間の記憶もよみがえってきます。私にとって、『ジャスマン ドゥ ペイ(ジャスミンの国)』は、ジャスミンの香りであり、グラースの旅の香り。それは、単なるジャスミン香料にはできない、香料がストーリーをもって際立って美しく表現されるよう計算された、調香師の天才的な手腕によるものです。
シングルノートは面白味がない、と感じている方や、ホワイトフローラル系の香りは重めで苦手という方、またもちろんジャスミンの香りが大好きという方も、一度はぜひお試しいただきたい1本です。私が今まで試香してきた何百という香りの中で、ジャスミンの花の本当の美しさを、これ以上表現しているものはない、と思えるおすすめの1本です。
レビュアー 羽賀 香織 Kaori HAGA 2020年5月