review 0046 : ラ ポ ヌ / LA PEAU NUE
【香水名】ラ ポ ヌ / LA PEAU NUE
【ブランド名】セリーヌ / CELINE
【発売年】2019年11月15日(水)
【パフューマー】非公開
【香りのノート】パウダリーフローラルノート
【キーとなる香り】
ベルガモット、ローズ アブソリュート、ホワイトオリスバター、ライスパウダー、ヴェチバー
【レビュー対象商品】 オードパルファン 100ml 25,000 円(本体価格)
※レビュアーが実際に試香した製品のみ記載しています。価格はレビュー当時のものです。
【オフィシャルサイト】セリーヌ公式サイト https://www.celine.com/ja-jp/celine-haute-parfumerie/haute-parfumerie-collection/la-peau-nue
セリーヌのフレグランスに関するニュースを目にしなくなってから10年以上が経ち、2019年11月にようやく、待望の新作フレグランスが発売されました。幸運なことにフランス滞在中でしたので、サントノレ通りの セリーヌ ラ ブティック オート パフューマリーへと出かけました。ブティックの正面に立つと、艶めいた黒ラッカー塗りのファサードにはゴールドの”CELINE”のロゴが嵌め込まれ、店内に入ると大理石の壁には鏡が効果的に掛けられていて、コーナーには流木や石を生かしたオブジェやプリミティブな印象の仮面などのインテリアが置かれています。ショーケースの中には大小の櫛、髭剃りや、それぞれを入れるための革製のケースなどがディスプレイされています。そしてショーケースの上に、今回発売となった9種類の香水が美しく並べられています。このセリーヌが新しくオープンしたオート パフューマリー(=高級香水店)の店内は、世界中を旅して自らの審美眼でアート作品を集めている人物を仮想オーナーとし、その人物の cabinet de toilette(=洗面室)といった趣です。
ドアマンと挨拶を交わし「セリーヌの新しい香りを試しに来ました」と告げると、奥からウェーブヘアと褐色の肌が美しい女性が出てきました。今日はこのスタッフが香りを紹介してくださるようです。「ようこそ、セリーヌの世界へ。喜んで香りを紹介させて頂きます。何かお飲み物はいかがですか?」と。きっとお願いすればエスプレッソかミネラルウォーター、もしかしたらシャンパーニュも頂けたかも。フライトの時間ギリギリの訪問だったために、とても残念ですが時間がないのでと告げて、さっそく香水に向かい合いました。今回発表された全9種の香水の表現する世界観はすべて、2018年2月にセリーヌのアーティスティック、クリエイティブ&イメージディレクターに就任したエディ・スリマンの記憶の中の光景と共にある香りであること、名前は挙げられないが複数のパフューマーがその調香に関わっていること、どの香りも女性でも男性でも纏えること、などの説明の後、ロゴと香水名入りの名刺サイズのムエットに香りをつけて渡してくれます。
すべての香りを試してまず感じたのは、トップノートの香りの出方がとてもソフトなこと。80年代に流行したような、重量感のあるパンチを当てられるようなショックを感じません。いくつかのコロンタイプのシトラスをトップノートで強調してある香りさえも、どこかまろやかです。
この冬、どの香りを纏いたいか考えて『ラ ポ ヌ』を選びました。 『ラ ポ ヌ』は香りを嗅いだ瞬間、ふわりとパウダリーノートを感じます。パウダリーノートは「お白粉のよう」なテクスチャーを感じさせるフェミニンなイメージを強調する香りです。メイクをする方ならファンデーションの後、フェイスパウダーをふわりと肌にのせる時に感じる粉が鼻腔をくすぐるような感覚を思い出すでしょう。ローズのフローラルノートは、先ほどのパウダリーな香りに重なり、頬を染めるバラ色のチークパウダーを思わせます。これはしとやかな女性の為の夢見るような香りかと思いきや、パウダリーの奥にマチュアなイリスの青っぽい粉っぽさを感じます。あら?これは?と考えていると煙るようなアーシーな香りがグンと持ち上がって来て、実は誰にでも好まれる大人しい香りではなく、個性的を際立たせる香りだと気づきます。
この『ラ ポ ヌ』、エディ・スリマンの記憶の舞台は、ハリウッドの有名俳優&女優や一流の監督が集まって来る70年代のパリのクラブ。当時の代表的な9区のル パラスや、3区のレ バン ドゥーシュなど、70年代後半の一流のナイトクラブに集まる人々のざわめきを香りで表現しています。そのようなクラブのドレスコードは「金持ちでも貧乏でも、若くても年寄りでも、有名でも無名でも結構。ただし平凡な人はお断り」と突き抜けたもの。そして世界中で禁煙法が施行される以前のこの頃の夜遊びの香りを表現するにはアクセントとしてのタバコの香りを。大騒ぎの夜が明けた後、素肌(=ラ ポ ヌ)に残る香りは若き日に胸にした憧れの香りでもあり、無敵の若さを愛おしむ香りでもあるのでしょう。
『ラ ポ ヌ』は、若い方が纏えば上質な野心を秘めたイメージに。一人でバーに行けるような大人が纏えばこの上なく洒脱な香りに。
香水のボックスは、パウダリーな手触りの紙製で、黒の平織のリボンが掛けられています。その中から現れるのはガラスを贅沢な量使用して作られた重厚感のあるボトル。紋章が付けられた黒いキャップを戴いたその佇まいは、フランスのブルジョワジーから絶大に支持されていた趣味の良いクラシカルなセリーヌのイメージです。でも、中身の液体は自由な創造力の具現化であり、『ラ ポ ヌ』は、古今のセリーヌの魅力を存分に感じさせてくれる香水です。
レビュアー 地引 由美 Yumi JIBIKI 2020年2月