review 0042 : ラグーナの庭 / エルメス
【香水名】 ラグーナの庭 / UN JARDIN SUR LA LAGUNE
【ブランド名】エルメス / HERMÈS
【発売年】2019年
【パフューマー】クリスティーヌ・ナジェル / Christine NAGEL
【香りのノート】フローラルウッディ
【香りの構成】
マグノリア、トベラ、マドンナリリー、サムファイア、ムスク
【レビュー対象商品】 オーデトワレ 50ml 11,600円(本体価格)
※レビュアーが実際に試香した製品のみ記載しています。価格はレビュー当時のものです。
【オフィシャルサイト】https://www.hermes.com/jp/ja/product/ラグーナの庭
「庭」と聞いて、頭に浮かぶのは?わびさびの効いた日本庭園?フランス式の優雅な庭?ナチュラルなイングリッシュガーデン?ワイルドなロックガーデン?広さや様式、庭を彩る草花木果、思い出等、想像されるイメージは人によって様々だろう。それでも、庭は共通して心地よさと安らぎを与えてくれる空間ではないだろうか。そしてフレグランスの「庭」といえばエルメス。今回は、庭シリーズから「ラグーナの庭」をご紹介しようと思う。
「ラグーナ」→「潟」→「水」→「コバルトブルー」と連想していたので、パッケージとボトルの写真を見た瞬間、「オレンジ?」と意外に思った。実物は、夕暮れや夜明けの空のような橙色に、ほんのり赤味がかかった落ち着きのあるレンガ色がメイン。どことなく空想の世界を思わせる佇まいの閉ざされた門、その先の何かを隠すように生い茂る木々、そして着色部分と線描のみの部分が現実と幻想の狭間のように感じられる外箱の絵は秘密をにおわせ、謎めいた雰囲気だ。香水名から、快晴の夏空の下、プライベートビーチでバカンスを楽しむような、オゾンたっぷりのエネルギーあふれるマリン調を想像していたが、全く外れている予感がした。
予感は的中。第一印象は、人の気配が全くない、自然と会話できそうな早朝の湖畔に似た静かで涼やかな香り。霧に覆われた湖畔のように、香りも全貌がとらえられないミステリアスさを秘めている。時間とともに香りに温かみがでてくると、なぜか懐かしさも覚えるけれど、全体の涼やかでミステリアスな印象はそのまま。この香りに包まれると、時空を旅しているような気分になる。遺跡等を訪れ、歴史に思いを馳せながらその時代を想像していると、しばらく意識が当時を旅している錯覚に陥る感覚に似ている。
最初に感じるのは、酸味より甘味が強い完熟オレンジのような香り。その後、上品でふんわりと甘い花の香りが、わずかな塩っぽさを含む優しい潮風に運ばれてくる。段々と樹皮やレザーのような乾いた香りもするようになり、フェミニンな雰囲気に男性的なアクセントが加わる。季節のイメージは、涼しくも温かくもあるノスタルジックな秋。甘さも生花のように上品で、樹木の落ち着きを感じる香りは、オンでもオフでも使えそう。品の良いコンサバ系、ナチュラルなベーシック系、抜け感のあるフェミニン系、きれいめカジュアルなファッションに似合いそうな香り。
オードトワレに多いアルコールの存在もほとんど感じず、最初から綺麗に香りが出てくるのは高ポイント。出かける前に両手首に1プッシュずつつけた香りは、3~4時間経つと、鼻に接近しなければほとんど感じられないほどほのかになる。全体的に軽やかで柔らかい香りなので、今までフレグランス製品が身近ではない方でも気軽にトライできると思う。
「ラグーナの庭」は、「エルメス」の2019年のテーマ「夢を追いかけて」を調香師のクリスティーヌ自らが自身の夢を追って具現化させた作品で、長年その存在を探し続けていた「秘密の庭」が舞台となっている。「秘密の庭」は100年以上前に英国出身のイーデン卿が水の都ヴェネチアに緑の庭園を造りたい、と願望を叶えた場所だという。「秘密の庭」は「夢」を叶える場所なのだ。香りの庭は流動的。纏う人によっても変化する。心地よいあなただけの「秘密の庭」で、新たな自分に出会ったら、夢が現実となる日も近いかも?
レビュアー 新咲 清香 Kiyoka NIISAKI 2019年10月