review 0041 : N° 19 / シャネル
【香水名】: N° 19
【ブランド名】シャネル
【発売年】:1970年
【パフューマー】:アンリ ロベール
【香りのノート】:フローラル・グリーン・ウッディ
【香りのポイント】:ベルガモット・イランイラン、リリーオブザバレー、ローズ、アイリスアブソリュート、ガルバナム、ベチバー、オークモス、レザー
【レビュー対象商品】: オードゥ パルファム 50ml 12,000円(本体価格)
※レビュアーが実際に試香した製品のみ記載しています。価格はレビュー当時のものです。
「服飾・ジュエリー・時計・化粧品・香水等、全身を単独でコーディネートできるハイブランドといえば?」と質問を受けたら、真っ先に思い浮かぶのは『シャネル』。1990年代、日本では若い世代にも人気が広がり、全身をシャネルで着飾った人を示す“シャネラー”という言葉が生まれたほどで、その人気もラインナップの豊富さも群を抜いている。今回はこの言わずと知れた老舗ハイブランドの『シャネル』から、『N゜19』をご紹介する。
ハイブランドの中でも、これほど創業者・デザイナー本人が時代を超えて注目されるケースも珍しいだろう。現代でもココ・シャネルのライフストーリーは映画化され、彼女の言葉は名言集として書籍となり多くの女性たちを刺激し魅了する。彼女の生い立ちは決して恵まれていたとはいえない。孤児院で育ち、2度の世界大戦を経験しながらも、富豪や公爵等の資産家との出会いと自身の才能を巧みに生かして成功へと上り詰めていく様は、フィクションを地で行くようなサクセスストーリーだ。「私の人生が気に入らなかったから自分で作り上げた」(ココ・シャネルの言葉 / 山口路子著)というシャネルの言葉は、自分の道を切り開く彼女の比類のない強い意志や精神力、バイタリティ、辛抱強さや根気等を感じさせる。
『シャネル』の香りといえば、『N゜5』を想像する方が大半かと思う。彼女が38歳の時に制作された『N゜5』は、円熟した女性の落ち着きと華やかさを感じさせる香り。一方、『N゜19』は、シャネルが永眠する1年前の1970年、87歳の時に発売されたもの。『シャネル』のフレグランスとして絶大な人気・評価を得た『N゜5』の発売から約半世紀も後に、80代で尚、これほど瑞々しい若々しさ・力強さを感じさせる香りを創作したシャネルの鋭い感性・エネルギーに圧倒される。男性優位な社会で、働く女性として常に前進しながら不動の地位とスタイルを築き上げたシャネルそのものに思える、溢れんばかりのエネルギーと大胆不敵さを感じさせる香りだ。
最初は、皮の苦みを含む柑橘系の爽やかな香りと葉の青っぽいグリーン。次第にリリー オブ ザ バレー(スズラン)やローズ等の生花の甘さが加わり、角が取れて柔らかく華やかな女性らしい雰囲気になってくる。同時に、セロリのような瑞々しく独特な苦味がアクセントとなって、凛とした力強さも感じる。オークモスに似た、湿潤な大地や森のような温かみのある心地良い香りも現れ、落ち着きがあり意志の強い凛とした印象。草花のたくましい生命力が一気にはじけたような、強いエネルギーに満ち溢れている香りだ。色に例えると“太陽の石”ともいわれるペリドットのように、透明感のあるイエローグリーンのイメージ。
外観は今なお人気を誇るシャネルスーツのようにシンプル。黒のN゜19とCHANELの文字。そして、落ち着いたゴールドと黒で縁取りが施された白い箱。リトルブラックドレスに代表されるように、黒をファッションへ昇華させたのもシャネルなので、象徴的なカラーともいえる。ボトルは角がなめらかな直方体で、キャップは横長の八角形のようにカッティングされているだけの、過剰な飾りのないシャネルらしいデザインだ。
香りの持続は5時間ほど。朝、両手首にワンプッシュずつつけ、お昼には鼻を2~3cmの距離まで近づけて感じる程度。午前中の疲れをリフレッシュし、午後をアクティブに乗り切るためにもつけたしをお勧めしたい。キリッと引き締まった清々しい香りなので、通年で使えそうだ。
『N゜5』を超える香りはできないという声を跳ね返す、反骨精神やアグレッシブさも感じられる『N゜19』。『N゜19』を一言で表すなら“Ground-breaking”。”画期的な・革新的な”と訳されるが、種が殻を破り、地面を突き破って上へ上へと植物が成長していく様子は、基礎となるもの(環境・立場・常識・概念等)を壊し、新しいものを生み出し続けたシャネルの人生と重なる。『N゜19』の名は、シャネルの誕生日1883年8月19日が由来。それだけ、彼女にとって特別だったのだろう。シャネルの芯の強さ・審美眼・エネルギーを集約したような『N゜19』は、何かにとらわれず、美しく大胆に人生の革命を起こす勇気を現代の女性に与えてくれるはず。
レビュアー 新咲 清香 Kiyoka NIISAKI 2019年5月