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香水を見つけましょう

review 0010 : ミツコ / ゲラン

【香水名】ミツコ / MITSUKO 
【ブランド名】ゲラン / GUERLAIN
【発売年】1919
【パフューマー】ジャック・ゲラン / Jacques GUERLAIN
【香りのノート】フルーティーシプレ
【香りのポイント】ベルガモット、メイローズ、ジャスミン、ピーチ、アンダーグロースノート、スパイス、ウッド
【レビュー対象製品・価格】香水 30ml 38,500円 / オーデパルファン 50ml 13,000(本体価格)
※レビュアーが実際に試香した製品のみ記載しています。価格はレビュー当時のものです。


 1905年の日露戦争を舞台としたクロード・ファレールの小説『ラ・バタイユ』。その小説のヒロインである日本人女性ミツコをイメージした、ゲランの2代目調香師ジャック・ゲランの名香です。日本海軍大将の妻であるミツコが、イギリス士官と恋に落ちるストーリーは、当時のヨーロッパ極東ブームの中、ベストセラーとなります。物語の中のミツコは情熱的な恋心を持ちつつも、その想いを出すことなく心の奥に秘め続けます。ジャック・ゲランは『成功する香水とは、それを思いついた夢や幻影の世界とぴったり一致する香りだ』と語っていますが、「ミツコ」は、慎ましげでありながら強い意志を持ったヒロインの肌の匂いや容姿が、幻想となって立ち現れるかの如く、彼女の官能性を神秘的に美しく表現した傑作です。

 道ならぬ秘めた恋を表現した逆さハート型の蓋つきボトルは、1912年に発売された「ルールブルー」と同じものが使用されています。第一次戦時下に物資が不足していたことによるものですが、この「ルールブルー」と「ミツコ」が第一次世界大戦の開戦・終焉時に発売され、その後に続く、近代香水時代の幕開けを象徴する2大香水となりました。そして100年を経た現在でも世界中で愛され続けています。
また20165には、創業1804年の有田焼窯元「弥左エ門窯」のブランド、アリタ・ポーセリンラボとコラボレーションした限定スペシャルボトルがオードトワレで発売されました。
 400年以上の伝統を持つ吉祥文様のボトルは、「ミツコ」の凛とした品格や華やかさを、より一層引き立てる美しいボトルとなっています。

 香りの特徴はピーチのフルーティーさと、シプレ系の香りに特徴的なダークで深みのあるアコードの見事なバランスです。ピーチのうぶ毛のような柔らかさ、あふれだすような果汁の甘さ、そこにアイリス、ジャスミン、ローズ、バニラの香りが華やかさを添え、またベースのスパイス、オークモスやベチバーの渋みや苦味が溶け合って、まろやかな女性の肌のような質感を出しています。

 『ミツコ』の香りの構成はシンプルで、香料の数は少ないのですが、驚くほど複雑でミステリアス。しかし、その幾重にも重なる香りの奥深さは、肌に纏うと、不思議と壮大で凛とした気品を感じるのが「ミツコ」の魅力です。

 『ミツコ』の処方では、初めてピーチの香りである合成香料アルデヒドC14が使用されました。これよりも先にもシプレの香水は存在しましたが、どちらかというとドライで土っぽく男らしい印象でした。ジャック・ゲランはシプレの特徴にピーチの香りを組み合わせ、男性的な要素で極めて女性的な肌感を表現する、という大胆な手法を取ります。以後、フルーティーシプレという系譜ができ、後のファム(ロシャス – 1944年)、パリュール(ゲラン – 1975年)などにその影響を見ることもできますし、近年のジミーチュウ(ジミーチュウ – 2011年)もその系統です。

 『ミツコ』は、魅惑的でありながらどこか奇妙なイメージがあります。べチバーやパチョリの湿った渋みのある香りと、芳醇なピーチの香りのコンビネーションによって、独特なワックスに似た非自然的な香りも漂わせ、纏う人の胸の中に複雑なざわめきを引き起こす得も言われぬ魅力があります。私たちが普段心の奥底に持っている説明のつかない欲望や夢、想像力。ミツコの魅力は、あいまいで言葉では表現できない感情が香りによって揺さぶられる、幻想的な世界なのです。

 100年という『ミツコ』の歴史の中で、香りの処方は何度か変更を余儀なくされています。シプレの骨格を成すオークモスと、トップのまろやかさを出す従来のベルガモットオイルが使用できなくなったためです。昔の「ミツコ」よりも現行のものは、深みが弱く特にトップノートにおいて、シナモンやアニスのスパイシー感が強くなっています。また全体的に輪郭がはっきりとして、特にトップノートで柑橘系のはじけるような明るさが強くなりました。それでも、依然として、ぼんやりとした暗さやおぼろげな雰囲気は醸し出していて、正統でクラシカルなフルーティーシプレと言えるでしょう。長年愛用してきた人にとって、香りの処方変更は辛いものです。しかし、ミツコに限って言えば、以前よりも眩しくすっきり感が増し、逆に現代を生きるミツコに似合っているようにも思えます。その意味において、クラシカルな香りが苦手な若い世代の人にも、より一層親しみやすくなっています。

 ゲランはこれまでに800以上の香水を作り出してきました。中でもゲランの「誇り」であり、その芸術性は名香中の名香と言われる『ミツコ』。そのような偉大な香りが「ミツコ」という名を冠し、日本人女性の美しさを表現した香りとして世界中の人を魅了しているのです。正統で美しく、歳を重ねてもいつまでもその魅力を引き出せる1本を、ぜひ日本の多くの女性にも愛してほしいと思います。

レビュアー 羽賀 香織(はが かおり) Kaori HAGA 2017年10月

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