review 0011 : ア ロンブル ア フィギエ / ビスミーヌ
【香水名】ア ロンブル ア フィギエ / à l’ombre du figuier
【ブランド名】ビスミーヌ / bissoumine ※2018年11月をもって、ブランドの活動を停止しています
【発売年】2009年
【パフューマー】キティ・シュピレ / Kitty SHPIRER
【香りのノート】フルーティウッディ
【香りのポイント】フィグ、クローヴ、サンダルウッド
【レビュー対象製品・価格】オードトワレット 50ml $83.00
※レビュアーが実際に試香した製品のみ記載しています。価格はレビュー当時のものです。
ブランド名の「ビスミーヌ」は、古代アラミック語の「香水」という言葉。キティはテルアビブ大学卒業の才媛で、アートを学び、画を描き、音楽はバッハフリーク、ヴァイオリンの音色が大好き。イスラエルから南フランスの香水の街、グラースに居を移してから「ここにいたら香水を創らずにはいられないわ」とパフューマーになり、自身のブランドをスタートさせました。
共通の友人の紹介で初めてお会いしたのは、陽光溢れる南仏、ヴァルボンヌのカフェでした。はじけるような笑顔でフレグランスへの想いを語る彼女との時間は最高に愉しいものでした。『香水をつけない女性に未来は無い』。ココ シャネルが好んで引用した詩人ボードレールの言葉です。「この言葉、どう思う?真実だと思う?それとも違うと思う?」「う~ん、そうね…どんな女性にも未来はあるわ。でも香りをまとう女性には特別な未来が訪れるのよ!」「そう、それは絶対に間違いないわね。」
当時彼女のフレグランスは、厳選されたアイテムしか置かないインテリアブティックで取り扱われていました。香水を肌にはつけない、というのが彼女のポリシー。洋服やランジェリー、そしてスカーフにつけて香りを愉しみたい、という考えです。ですので、それぞれの香水をイメージしたスカーフがフレグランスの傍に。香りとスカーフのコーディネートがとても素敵でした。
その翌年、彼女のアトリエを訪ねました。地中海を臨む高台にある真っ白なアトリエの前にはプールが。その一段下にはオリーブの樹がある庭と、グラースの山に降った雨が清冽な水となって湧き出す、彫刻のある石で囲まれた泉。そしてその泉を覆うように広く、高く、枝を伸ばしているのはフィグ(イチジク)の大樹。真夏の強い日差しを緑の葉が重なり合いパラソルのように遮り、芳しいグリーン香と水の匂いが漂います。傍の木の椅子に座ると大きく深呼吸したくなります。『ア ロンブル ア フィギエ』は、” イチジクの木陰で ” という香水名そのままに、その情景が香りで再現されています。
スプレーするとまず、太陽の煌めきのようにキラキラと輝くベルガモットの香りがスタートし、若葉や少し厚みのある葉の持つ、様々なトーンのグリーンノートが展開します。そして甘さを含んだような水の香りと、イチジクの果実の中に潜むしっとりとしたフローラルノートを感じ、全ての感覚が満たされていきます。
主張しすぎないクローヴの香りと相まってコンフィチュールのようなグルマンノートも見え隠れしながら、サンダルウッドの香りと溶け合っていく快感。そして、自然界で、植物も次の世代へと命をつなげていく為に必ず持っているはずの、包容力のある、力強い、官能的魅力に満ちているのです。イチジクの恋の物語。そしてその結実としての豊かな香りに溢れるイチジクの実の甘美さ。
ぜひ男性にも纏って欲しい香りです。この香りのする胸の中に抱かれたら、すぐに夢見心地になるでしょう。
声高に言うことはありませんが、中東戦争の現実を目にして来たキティは、何よりも平和を願っています。人は良い香りに包まれていれば、必ず優しい心になるはず。安心して恋に落ち、幸せな命を次の世代に繋げていくことが出来るはず。ビスミーヌの香水はいつもそのことを思い出させてくれます。
レビュアー 地引 由美 Yumi JIBIKI 2017年10月