review 0002 : フローラベリオ / ディプティック
【香水名】フローラベリオ / Florabellio
【ブランド名】ディプティック / Diptyque
【発売年】2015年
【パフューマー】ファブリス・ペルグラン / Fabrice PELLEGRIN
【ノート分類】フローラルムスク
【香りの構成】マリンノート、アップルフラワー、コーヒー
【レビュー対象製品・価格】オードトワレ 100ml ¥13,600(本体価格)
※レビュアーが実際に試香した製品のみ記載しています。価格はレビュー当時のものです。
古代ローマやギリシア神話に出てくるような服装の女性が花輪をかぶり、たくさんのリンゴ・草花を束ねたリースのようなものを空に向けて大きく広げ、風にそよいでいる。向こう側には海岸や海がのぞき、ヨットの浮かぶ穏やかな光景がDiptyqueのFLORABELLIO(フローラベリオ)の表には描かれている。裏にも木や植物といった自然が描かれ、風にゆれる姿が非常にいきいきとした軽快で明るいイメージだ。
植物や果実、海といった女性的な対象が描かれているボトルの絵とフローラベリオの“フローラ”から、華やかなフローラルやフルーツの甘さの強いフェミニンな香りを想像していた。しかし試してみると、意外にもスッキリとした甘さで、味覚でいうところの甘・酸・苦・鹹のバランスの取れたユニセックスな香りというのが正直な感想である。そして香りを感じた瞬間、異国へトリップしたかのような感覚を覚える不思議な、Diptyqueらしいアーティスティックな香りだと感じた。
トップの印象は非常に爽やかで軽やか。つけたてはリンゴの花の清々しくあっさりした甘さが際立ち、フレッシュな柑橘系の中に、程よいマリンテイストの塩っぽさを感じる。柑橘系の香りと塩っぽさにより甘さにメリハリがついていて、どこかクールな印象も受ける。穏やかに晴れた日のヨーロッパ。優しい陽射しと心地よく吹く風に海が近づいていることを感じながら、果樹園から海へと抜けるゆるやかな道をのんびりと歩いているような気持ちになる。バカンスや旅行といった“リフレッシュ”がキーワードになる香り立ちだ。
段々とフルーティーさやマリンテイストが落ち着いてくると、今度はキンモクセイのような温かみのあるほのかな甘さが現れる。ここにグリーンの葉のような渋みとコーヒー豆の芳ばしさや苦みが加わり、ぐっと力強く引き締った香りに変化する。絶妙な具合で香るので、コーヒーが得意ではない方でも気にならないだろう。全体のもつ柔らかく明るい雰囲気はそのままに、苦みや渋みが良いアクセントとなってより中性的な、そしてより個性的な香になってくる。花・フルーツとコーヒー豆の意外なコンビネーションが良い具合に調和し、お互いを引き立て、今までにない新しいハーモニーを奏でている。
フレッシュな香り立ちや植物・海のイメージ等から、春や初夏にぴったりの香りだと感じる方が多いだろうか?実は、個人的には全く異なる。暑さが和らぎ始め、温かい飲み物でほっと一息入れたくなるような、秋のおとずれを感じる時節にまといたくなる香。朝晩のひんやりした空気に柑橘系のレモンが綺麗に香り、マリンテイストの効いた香から、温かみのあるキンモクセイのような香への変化に季節の移ろいが重なってくる。ラストの落ち着きも、秋らしいアースカラーやボルドーのような深い色合いが似合いそうな雰囲気を感じる。トップからラストへかけてのイメージが、寒色系から暖色系に、春夏から秋に、朝から夕に、動から静にと移り変わる様が芸術的で、一段と秋にまといたいと思わされずにはいられない。
ユニークな香りではあるが、オードトワレなので全体的に軽やかに香り、つけてから3時間ほども経てば肌にふんわり残る程度。“人とは違う個性的な香に挑戦してみたいけれど、重たく強い香は苦手”という方や、“香りの変化を楽しみたい”という方、“柔らかく明るい香りが好き”という方には特におすすめ。気分を明るくしたいときに、シュッとワンプッシュ。トップの爽やかさで気持ちも頭もリフレッシュ。ミドルからラストにかけての落ち着きと、キリッとした雰囲気への変化を楽しみながら、オンとオフのどちらでも使える香り。女性がまとえば柔らかでしなやかな印象に。男性がまとえば爽やかで落ち着いた印象に。バランスの取れたユニセックスな香ならではの、単調ではない多面的な複雑さが個性として光る。男性的・女性的という枠を飛び出し、自由に自分らしさを表現したいときには、ぜひ手に取っていただきたい。
レビュアー 新咲 清香 Kiyoka NIISAKI 2017年10月