review 0015 : アトリア / アンジェラ・チャンパーニャ
【香水名】アトリア / HATRIA
【ブランド名】アンジェラ・チャンパーニャ / Angela CIAMPAGNA
【発売年】2015年
【パフューマー】アンジェラ・チャンパーニャ / Angela CIAMPAGNA
【香りのノート】ウッディアロマティック
【香りのポイント】サフラン、ジャスミン、クローブ、ローズ、キャラメル、パチュリ、ガイヤックウッド
【レビュー対象製品・価格】オードパルファン 100ml 25,000円(本体価格)
※レビュアーが実際に試香した製品のみ記載しています。価格はレビュー当時のものです。
『アンジェラ・チャンパーニャ』。インターネット上のニュースで見た芸術的なボトルデザインが気になっていました。キャップの上部に、キリスト教会のステンドグラスのバラ窓のようなオブジェが乗っているのです。ISETAN Salon de Parfum 2017 でのセミナー開催の為に来日された、パフューマーのアンジェラ・チャンパーニャさんと、パートナーでありテクニカルディレクターを務めるエンリコ・マラフィーノさん。 お二人の出身地であるブランド創設の地、イタリアのアトリの名を冠した『アトリア コレクション』(Hatria=アトリの中世ラテン語での呼称です)の7つの香りをご紹介頂きました。冒頭、アトリの街を紹介するビデオを観せて頂いたのですが、映像から街の大きさや職人の街であること、カトリックの文化が感じられます。以前フィレンツェで、モスクワの大クレムリン宮殿の床を担当した職人の工房を訪れたことがありますが、その時、イタリア人の手で作る(もちろん現代では最新の機械も使用しますが)ことで生み出す最高の製品への追求、技術とセンスの誇りを知りました。『アンジェラ・チャンパーニャ』の香水の存在感からもそれを感じます。
香水を製造する工場の映像も鑑賞させて頂いたのですが、最終段階で香料を混ぜ合わせてアルコールに溶解した液体を、極小ミクロンの穴をもつ特別なフィルターで濾すのだそうです。見た目にはコーヒーのネルドリップのように見えるそのフィルターの形がまるでローマ法王が儀式の際に被る帽子のような形ということで、アンジェラさん達は「法王の帽子」と呼んでいるそうです。カトリックの国ならではの比喩ですね。
イタリアから持参された、香料原料を嗅がせて頂きました。バージニア産タバコアブソリュート、ソマリア産オリバナム、コロンビア産バルサム、アンブロクサンの4種です。セミナー最後の質疑応答の際に「最高の天然香料はどのように見つけていらっしゃいますか?」というような質問が出ましたが、アンジェラさんの答えは「必ずしも香料自体が最高品質であり、高価なものである必要はありません。それよりも私が創造したい香りにあっているもの、その香りの世界を表現するのに最適なものであることを見極める感覚、そこを重要視しています。時間をかけて選び出すことが大切です。」と答えられたのが印象的でした。
『ノックス』『アーエル』『リクオ』『ロザリウム』『カーナト』『デュカーリス』『アトリア』の7つのうち「纏いたい!」と心を掴まれた香りは『アトリア』。フローラルなローズの香りが、鉛色のトーンを纏ったようなフロリエンタルノートだと感じられます。頂いたカードタイプの美しい資料には「アドリア海の暖かさ」とあり、メイン香料としてはローズ、キャラメル、ウードがメインで紹介されています。しかしトップノートのダバナとクローヴ、ラストノートのパチュリとラブダナム。この香料達のコンビネーションが、初期のステンドグラスに使われていた鉛の枠のような重さと、鉛色(灰青色)を感じさせ、濃密な暗いトーンの香りの中にキラキラする白いジャスミンの花が現れます。黒いベルベットのロングドレスに合わせて纏えば、妖艶な雰囲気に。でも退廃的には感じさせない、きちんと感のある香りです。
「この絵に描かれた女性がこの香りのイメージです。ノーメイクで、強い意志を持った女性。」アンジェラさんが説明しながら画面に映し出したのは、木炭と黒と白のチョークで描かれたミケッティの絵でした。目に見えない香りは画像イメージになぞらえて表現することがよくありますが、アンジェラ・チャパーニャの香水は、クローブを粉にして乾いた茶色を、パチュリの根をすりつぶして明るい褐色を、ダバナのアブソリュートでとろりとした黒茶色を、ローズの花びらを揉んでバラ色を、そんな風に作り出した色で描かれた絵画のようです。しばしば声高に「天然香料使用」と謳う香水よりも、生き生きとした香料達の命が強く感じられます。そしてトップノートには油絵の表面のような香り。ラストノートに揺蕩うキャラメルの香りが現代性を感じさせます。
レビュアー 地引 由美 Yumi JIBIKI 2018年11月