review 0016 : アロ ルナール / フエギア1833
【香水名】アロ ルナール / Halo lunar
【ブランド名】フエギア1833 / fueguia 1833 patagonia
【発売年】2017年
【パフューマー】ジュリアン・ベデル / Julian BEDEL
【香りのノート】アロマティックハーバル
【香りのポイント】ラべンダー、アンバーグリス、サンダルウッド
【レビュー対象製品・価格】パルファン 30ml 15,600円(本体価格)
※レビュアーが実際に試香した製品のみ記載しています。価格はレビュー当時のものです。
フエギア1833は、2015年10月7日、日本にローンチしたフレグランスブランドです。六本木のホテル グランドハイアットの中のブティックは、ジュリアン ベデルさんのニューヨークの友人、トニー・ チーさんによるデザインで、リニューアルしたブライダルサロンに隣接しています。グランドハイアット2階のバンケットへと向かう階段の向かい側の美しい空間にふさわしい、美しい空気感漂う、美しい香り達の館のようです。
ローンチ時に来日されたジュリアン・ベデルさんとお話ししていて思うのは、もう「『ニッチ』フレグランスブランド」とは呼びたくないということ。2008年頃から一般的になってきた『ニッチ』と呼ばれるフレグランスブランドも、それぞれの発展を遂げ、規模的にもイメージ的にも『ニッチ』ではなくなったものがたくさん。「ニッチ=隙間」などではもちろん無く、「ニッチ=壁龕(へきがん)」の中にある彫像のように、ブランドの生まれた地に留まっているだけのブランドも少なくなりました。フレギア1833も慎重にセレクトしながら、世界の一流ホテルの中に店舗をオープンしています。お父様が建築家、お兄さまが画家(ブティックに作品が展示してあります)、自らも文学と音楽と芸術を愛し、ミラノにラボを持ち、世界中を鮮やかに行動するジュリアンさんは、センスと戦略を生かして活動する現代アートの作家のようであり、彼の生み出した香り達もまたアートのようです。
店内の奥の壁は鏡面となっており、南米の地図が施されています。ジュリアンさんとの会話は英語とフランス語とイタリア語のミックスでしたので、正確な文章は覚えていないのですが「パタゴニアはemptyなのですよ!」という言葉が印象に残ります。ほら、ここからここまで、全てがパタゴニア!と全身で地図を示しながら広大さを教えてくれます。豊かすぎる自然は容易に足を踏み入れることができない程。だから地図は何も書けない「empty=空白」のページのよう。こんなに広いのに。人の痕跡がない、空白。そして、人が入れないからこそまだ誰も知らないものがたくさんある。誰も知らない憧れの地を冒険した人しか感じられない、その地の香り。動物の息づかい。そこに生きる人たちの人生までも香りに翻訳してくれているのが『フェギア 1833』の香水達。
新作のうち『アロ ルナール』は、ウルグアイで育てたラベンダーの香料を使用したそうです。満月の夜。月の周りに薄い雲がかかった際に、その周囲に光の輪が現れます。光の笠をかぶった月とも言われるるハロー現象が起きている夜空。その月明かりの下で咲く、ダークでノクターナルなラヴェンダーの香りが香りのストーリーです。
スプレーした瞬間は「精油感の強いラベンダーをこんなにたくさん配合して大丈夫なのかしら?」と心配になるほどの豊かな香りが広がります。やがてその香りの中に、ベルガモットのようなシトラスノートが、輝く小さな星々のようにキラキラと瞬くように感じられます。
香りは放つの簡単だが、消すことは難しい、と香料会社の方々は言います。驚くほどセンシュアルでミステリアスなラベンダーの香りは、時間と共に穏やかにアンバーグリスとサンダルウッドと溶け合い、その姿を消していきます。そこに調香師ジュリアン・ベデルのテクニックの妙を感じます。ラベンダーを主とした香水は、メンズフレグランスや、英国風、といったイメージが強くなりがちですが、女性が纏うと時に優しく、時にクールなアンビバレンツは表情を見せてくれる香りです。もちろん、男性が纏っても品格に溢れ、かつエネルギッシュさを感じさせます。誰もが馴染みのあるラベンダーが、古くない、現代的な香りとして目の前に現れたことがとても嬉しく、『明るい南仏』ではなく『南米の夜』という香りのコンセプトにも心誘われる香りです。
レビュアー 地引 由美 Yumi JIBIKI 2017年12月