review 0034 : ルール ロマンティック / シロ
【香水名】ルール ロマンティック / L’Heure Romantique
【ブランド名】 シロ / CIRO
【発売年】2018年
【パフューマー】 アレクサンダー・ストレック / Alexander Streeck
【香りのノート】モダンフローラル ブーケ
【香りのポイント】ブルガリア産ダマスクローズ、オーキッド、ウォーターメロン、ピンクグレープフルーツ、スズラン、ベチバー、アイリス、シクラメン、ブルボンバニラ、ホワイトムスク
【レビュー対象製品・価格】オードゥ パルファム 100ml 25,000円(本体価格)
※レビュアーが実際に試香した製品のみ記載しています。価格はレビュー当時のものです。
1920年代の好景気に湧くアメリカ。フレグランスを心から愛する時代の先駆者であるジェイコブ・S・ウィードコフ(Jacob S. Wiedhopf)により『CIRO』はニューヨークに誕生しました。ブランド名は当時のモンテカルロで最先端の社交クラブの名前に肖ったもの。そのオリジナリティ溢れる香りで大人気となりますが、20点以上のフレグランスを発売した後、1961年の二つの香水を発表したのを最後にその活動を停止します。
ウィードコフは『CIRO』の創業者であるとともに、パリの老舗香水メーカー 『Caron(キャロン)』をアメリカに広め、1949年にニューヨークを本拠地として設立されたフレグランス財団の共同創始者であり初代会長となった、アメリカのフレグランス界に大きな貢献をした人物です。彼はドイツ系の移民の家族に生まれたというルーツがあり、この度の『CIRO』の復活にあたりドイツの高級フレグランスブランド、『LINARI(リナーリ)』のオーナーであるレイナー・ディエシェ(Rainer DIERSCHE)が尽力したのも不思議ではないでしょう。昨年六本木のAXISでお会いした時、会場にあった『LINARI(リナーリ)』のオードゥ パルファン以外に「素敵な香水を発表する準備をしています」とおっしゃっていたのは『CIRO』のことだったのですね。
日本でのローンチに合わせて来日された『CIRO』インターナショナルマネージャーのマルコ・マリ(Marco MARI)氏からお話をお聴きしながら、現代に復活を遂げた『CIRO』の香りを六本木ヒルズのESTONATIONにてゆっくりと体験しました。全6種の香りは全て女性も男性も使えるように調香されています。その中で私が気に入ったのは『ルール ロマンティック(L’Heure Romantique)』。「ロマンティックな時間」という意味です。同じ名前の香水が1929年に発売されていますが、もちろん新しいクリエーションです。パフューマーはアレクサンダー・ストレック(Alexander Streeck)。
まず、蜜のようなローズの香りがふんわりと広がり、同時にアクアティックなウォーターメロンの香りが見え隠れし、さらにスズランやアイリスの香りが広がってゆきます。イメージするカラーは、水彩で描いたアイリスの花のような透明感のある青紫色。花の香りの中に軽いアルデヒドノートが感じられ、何かスパイシーなアクセントを持ちつつ、まろやかにバニラが香り始めます。やがて穏やかなベチバーの香りが肌の上に放たれ、そのまま包み込まれるようなラストノートに。女性が纏うとロマンティックな優しい姿からからマチュアな落ち着いた雰囲気のレディに。男性は花を自分の魅力アップに使う恋の熟練者というムードから、大地のような包容力を感じさせるジェントルマンにと、時間と共に変化する香りで纏う人の雰囲気まで変えてしまう、魔法をかけてくれるような香水です。
『ルール ロマンティック』はブーケのような花々の香りを存分にたのしめますが、ノスタルジックな香りではなく現代の男女が求める「ロマンティック」なシーンにふさわしい香りです。それは恋人同士が視線を交わし、夜の色に溶けていくようなひと時の為の香り。「最近、ロマンティックが足りないわ」と思った時に纏うべき香り。ボトルデザインも、ゴールドのキャップに側面をブラックで縁取り、透明な空間にロゴが浮遊するように見えるモダンシックなデザインです。
マルコさんが香りをスプレーしてくださる時に、これから香りをのせる肘から手首に向けての肌を、手の甲でそっと撫でました。そして右腕にはそのまま香水をスプレー。バッグをかけていた左腕の内側は少し汗ばんでいたのでしょうか、くるっとひっくり返されて腕の外側にスプレーされました。肌の状態をみて、香りをより良い条件で試せるようにという繊細な心配りなのでしょう。同時にそのエレガントな仕草は「これから素敵な香りをのせますよ」と言葉ではなく心に語りかけられているようで、香水をつけるという行為そのものを美しく感じさせてくれる、さすが、「アモーレ(愛)の国」イタリアはフィレンツェに住む男性だわ、と感心して彼を見ていました。そんな時もまた「ロマンティックな時間」。
レビュアー 地引 由美 Yumi JIBIKI 2018年10月