review 0033 : セダ / FUEGUIA 1833
【香水名】セダ / Seda
【ブランド名】FUEGUIA(フエギア)1833 / FUEGUIA 1833
【発売年】2018年
【パフューマー】ジュリアン・べデル / Julian BEDEL
【香りのノート】フローラルジャスミン
【香りのポイント】ジャスミン、マグノリア、イリス、グロリア、植物性ムスク
【レビュー対象製品・価格】テキスタイルスプレー 50ml 10,000円(本体価格)
※レビュアーが実際に試香した製品のみ記載しています。価格はレビュー当時のものです。
【発売日】2018年12月1日 ※2018年11月21日 GINZA SIX にて先行発売
海外の香水関係者から「なぜ日本人は香水をつけないの?」という質問をされていた頃を過ぎて、今では「日本人は香水をつけないものね」とまるで常識のように言われる度に、何かもどかしい思いがあります。高温多湿の国での生活は、汗ばむ肌のべたつきは強い不快感を覚えます。またタブーに触れた時、近づいたときは穢れを祓い清め浄化する為に、水で洗い流すことが行われてきました。「禊(みそぎ)」を済ませ、清い状態でいることが美徳とされています。また、自らの肉体を積極的に誇示するというよりは、全体の雰囲気で人間性を感じさせる、そんな控えめな魅力アピールの仕方を好ましく思う人が多い国民性でしたから(今は少しずつ変化してきていると感じます)、慣れない香水の匂いを攻撃的であると感じたり、香水を体以外につけてたのしむテクニックが求められて来たのかもしれません。
香水をつけない日本人も、衣類用柔軟剤は喜んで受け入れました。最初はソーピィ(石けん調)な香りを。ダウニーなどが入手しやすくなり人気が出てからはフローラル、フルーティ調の香りを謳う製品が増え始めます。「香水のような柔軟剤」「叩けば香る」「トップノート、ミドルノート、ラストノートを楽しんで」などというキャッチコピーがTVCMや雑誌広告に溢れ出す頃には、メーカーの提示する使用量以上に投入する消費者が増え、衣類の繊維にしっかりと吸着されて一日中香りが持続する独特の匂いを敬遠する人たちも出てきました。「匂いを気にする敏感な人」でありたいために使用していた衣類用柔軟剤もその使い方で、いつも同じ強い匂いをさせている人、というイメージを与えますし、香りで製品を選んで差別化しているようでいても、衣類から放たれる柔軟剤独特の匂いは、今や高級感と結びつくことはありません。
それでもやはり香水はつけたくないないけれど、良い香りはさせていたいという人は多いのです。
FUEGUIA 1833から新しい香りが発表されるということで、ブランドのオーナー&パフューマーのジュリアン・べデル氏も来日された10月4日の六本木のグランド ハイアット東京での発表会にご招待いただきました。そこでお披露目されたのは、2018 TONICO COLLECTION(トニコ コレクション)と、2018 TEXTILE COLLECTION(テキスタイル コレクション)です。上にも記載されていますが、2018年12月1日に全国発売、2018年11月21日 GINZA SIX にて先行発売となります。
2018 TONICO COLLECTION(トニコ コレクション)は、ジュリアンが愛するパタゴニアの豊かな植物が放つ香りから生まれたナチュラルでポエティックな5つの香り。ジュリアンがウルグアイで運営している5万ヘクタールの敷地を誇る植物学研究所『FUEGUIA 1833 ボタニーセンター』で咲き誇るアロマティックな草花や樹木がそのまま、ボトルに閉じ込められたよう。香りの印象と合わせてプレス用資料から抜き書きしてみます。
・『Carqueja(カルケハ)』 – ハーブティとして飲用される苦味の強いハーブ。ビターな芳香の中に、鮮やかな爽快感がある。
・『Cinerea(シネレア)』- 赤い花を咲かせる観賞用樹木。ユーカリからメントールの香りを除いたアロマティックグリーンの香り。
・『Copaiba(コパイバ)』- ウッディかつハニードリンクを思わせる香り。
・『Espinijjo(エスピニージョ)』- 小ぶりで強い香りを放つ樹木に咲くジャスミンやミモザのような花の香り。
・『Marcela(マルセラ)』- ラテンアメリカ、アフリカで見られる芳香を放つ花。
・『Mate (マテ)』- アルゼンチンの国民的ドリンクとして愛飲されるハーブ。皮革を思わせるハーバルでグリーンな香り。
2018 TONICO COLLECTION(トニコ コレクション)のTONICOは英語だとtonic、フランス語でtonique。「活力を与える、刺激する、元気づける、アクセントを与える」という意味の通り、それぞれが摘みたての植物のエネルギー感が溢れる個性ある香り。マーケティング主導であらかじめキャッチコピーが作られた上での調香ではなく、自然のままであるが故に、より自由に多くを語りかけて来てくれる香り達です。
そして2018 TEXTILE COLLECTION(テキスタイル コレクション)は、日本で衣類用柔軟剤がとても支持されているという話を聞いたジュリアンが「それでは、衣類を香らせるのに最適な香りを創りましょう」と、完成させたラインナップです。肌ではなく、衣類にスプレーします。肌についてしまっても問題は無い抗菌・抗ウイルス作用をもつ原料で構成されたベースに、それぞれの繊維に合わせて衣類と一体になるように香りが設計されています。スプレーするのに最適な生地素材が香りの名前になっています。
・『Alpaca (アルパカ)』 – 日本原産の檜の葉やシトラス、シダーウッドなど。柔らかで繊細な毛織物、アルパカの高級感を引き立てる香り。
・『Seda(セダ=シルク)』 – マグノリアやアイリス、希少なジャスミン。ベッドリネンにスプレーして甘い夢を。贅沢なシルクのインティメイトウェアにも。
・『Vicuna(ヴィクーニャ)』 – サンダルウッド、オークウッド、ベチバーなど。重い香り分子で、ヴィクーニャの毛皮の暖かさを表現。カシミヤのニットに纏わせて。
・『Indigo(インディゴ)』 – マジョラム、ジンジャー、ゼラニウム、ミント。ディープグリーンのハーブの香りで、コットンやデニムの着こなしを爽やかに演出。
・『Lino(リノ=リネン)』 – ナツメグやオレガノ、タイム、ペッパーなどのスパイスを基調として、陽光を感じさせるラベンダー、ムスクが洗い立てのシャツにキリリとしたアクセントを与えます。
私が惹かれてしまったのは、2018 TEXTILE COLLECTION(テキスタイル コレクション)の『Seda セダ』。シルクは滑るようななめらかな肌触りが大好き。そして暖かく体を守ってくれながらも、熱と湿気がこもりすぎないように調整してくれる優秀な繊維。しかし寒い時期には、身につける時にひんやりするのが辛い時も。そんな時、ナイティやインティメイト、ブラウスなどを着る前に内側にスプレーしておくと、柔らかいフローラル調の香りのおかげでしょうか、冷たさを感じにくくなるのが不思議。そして、着用している間は本当にさりげなく香ってくれます。ジャケットやコートを脱いだ時にふわりと香る瞬間は、ああ、良い香りを纏っていることって幸せだわと思わせてくれる香りです。
2018 TEXTILE COLLECTION(テキスタイル コレクション)で衣類を香り付けたら、自分の体に纏う香りも欲しくなります。 2018 TONICO COLLECTION(トニコ コレクション)の中では『Carqueja(カルケハ)』、そして『Cinerea(シネレア)』を合わせるのが好きです。『Seda セダ』×『Carqueja(カルケハ)』は、クリアな透明感を感じさせるフローラルノートがビターなグリーンノートに重なって、シックでエレガントな香りになります。近代香水が生まれる前の時代の王女様などは、きっとこのような香りがしたのでしょう。『Seda セダ』×『Cinerea(シネレア)』は落ち着いた、ゆったりとした包容感や余裕を感じさせる香りに。自分で纏うのも良いですし、男性にも似合う組み合わせだと思います。
そしてすでに手持ちのFUEGUIA 1833の香水の中では『Agua Magnoliana(アグア マグノリアナ)』を合わせると、マグノリアがさらに強まり、ジャスミン、サンダルウッドの香りと混ざり合って、フェミニンな気分が高まります。
調香師が香料瓶を並べておくオルガンというものがあります。ジュリアンのオルガンは、香料瓶が置かれているのではなく自然の植物がそのまま生えているかのよう。いや、広大なボタニーセンターそのものが彼のオルガンなのでしょう。愛する南米の自然の植物から最高のエッセンスをすくい取って、自らの芸術的センスで磨き上げて私たちに提示してくれた香り達。それをまた、自分で感覚で組み合わせてみるたのしみをプレゼントして頂いたような今回のコレクションです。「自然が作り上げたものこそが美しい。我々はそこから発見するだけだ。」というアントニ・ガウディの言葉があります。香りを纏う側としても、最高の組み合わせを「発見する」センスを日々磨いておかなくては。
レビュアー 地引 由美 Yumi JIBIKI 2018年10月