review 0030 : モン ゲラン オーデトワレ / ゲラン
【香水名】モン ゲラン オーデトワレ / Mon GUERLAIN EAU DE TOILETTE
【ブランド名】ゲラン / GUERLAIN
【発売年】2018年
【パフューマー】ティエリー・ワッサー / Thierry WASSER
【香りのノート】シトラスオリエンタル
【香りのポイント】マンダリン、ジャスミン、ラベンダー
【レビュー対象製品・価格】オーデトワレ 50ml 10,000円(本体価格)
※レビュアーが実際に試香した製品のみ記載しています。価格はレビュー当時のものです。
2017年3月に発売された『モン ゲラン』は、レディスフレグランスのメイン香料としてラベンダーをセレクトすることで、それまでにない力強く、新しい女性像を描きだすことに成功しました。これは一つの大きなチャレンジでした。
古代から、その抗菌作用からソープの香り付けに使われたり、衣類を食べる虫を防ぐためにリネン類のすすぎ水にエッセンシャルオイルを垂らしたり、クローゼット用のサシェに用いられたり、なかなか寝付かない子供のパジャマの裾につけたり、とラベンダーのイメージはファッショナブル、というより衛生的、またはハウスホールドのイメージです。そして、紳士の国、イギリスではアフターシェーブローションの香りとして用いられたり、男性用フレグランスを代表する香調のフゼアアコードの主要となる成分でもあり、メンズの香りのイメージが強くあります。そのラベンダーを新しい女性用フレグランスに用いたゲランの決断に最初は驚きました。
ゲランの調香師は、早くから世界中を旅しています。それは上質な天然香料を探す旅です。2代目調香師のエメ・ゲランは19世紀後半から、白樺のエッセンスや革の香料を求めてロシアを旅していましたし、4代目の調香師、ジャン=ポール・ゲランは1937年1月9日にパリ16区で生まれてから、長じては4代目調香師兼原料の買い付け係となり上質な天然香料を求めてネパール、インド、チュニジア、イタリア、レユニオン島、マヨット島を旅する様子を “Les routes de mes parfums”(日本語訳『ゲラン 香りの世界への旅』 / フレグランスジャーナル社:絶版)という一冊の本に書き記しています。そして、現代では5代目の調香師であるティエリー・ワッサーが、ゲラン家の人々と同じく、最高の香りを求めて世界中を旅している様子をInstagramで見ることが出来ます。そして彼は旅を通して、先進国とはいえない環境の中で、女性こそが社会や経済を支えている存在であると気づき、その献身的な様子と、新しいことを恐れないオープンな姿勢に心を打たれたのです。
『モン ゲラン オーデトワレ』の香りは、トップノートではマンダリンで新しい驚き、オープンな明るさを表現し、ベルガモットとペア(洋梨)の香りが寄り添います。ミドルノートでは、乾いた土地でも強くパワフルな香りを放つラベンダーとジャスミンサンバックが優しく強いフローラルノートを構成し、ネロリが優雅さを添えています。そしてラストノートにはバニラ、アイリス、サンダルウッドと貴重な香料で、落ち着いた中にも華やかさを感じさせます。
『モン ゲラン オーデトワレ』は香りのミューズとして女優として演じてきた役柄のイメージだけでなく、私生活でも新しい選択をし続けてきたアンジェリーナ・ジョリーを起用し、タトゥーが女性のマイナスイメージではなくなった現代性をアピールしています。
ボトルはゲランが1908年にバカラ社にオーダーしたクアドリローブ(=quadrilobe)という四つ葉型のキャップを現代的にアレンジしていて、そこに伝統とエレガンスを感じます。
常識を疑い、新しい挑戦を続ける、明るく希望に満ち溢れた輝きを放つ女性のた為の。また、そのような女性になりたい時の。とても刺激的な香りです。シトラスオリエンタル、という香調も斬新です。現代的な重くないオリエンタルノートは、挑戦と安らぎという二面性を持つ、季節を問わず愛用できる香りです。
レビュアー 地引 由美 Yumi JIBIKI 2018年9月