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review 0007 : エンジェル / ティエリー・ミュグレー

【香水名】エンジェル / ANGEL 
【ブランド名】ティエリー・ミュグレー / Thierry MUGLER
【発売年】1992年
【パフューマー】オリビエ・クレスプ / Olivier CRESP
【香りのノート】オリエンタルグルマン
【香りのポイント】ベルガモット、マンダリン、へディオン、カシス、デューベリー、レッドベリー、ハニー、キャラメル、クマリン、パチュリ、バニラ、砂糖漬けアーモンド、サンダルウッド
【レビュー対象製品・価格】オードパルファム 50ml $82.00
※レビュアーが実際に試香した製品のみ記載しています。価格はレビュー当時のものです。

 店頭に並ぶ数多くの香水の中からどれを手に取るのか、香りとの出会いはそこから始まる。ダイアモンドカットを思わせる青い星。ひと際異彩を放つこのボトルに目を留めない人はいないだろう。
 今にも踊りだしそうな躍動感のあるこの星を手中にすると、まるで流れ星を捕まえたようで、どんな香りがするのだろう、と出会った人の心を躍らせてくれる美しいボトルである。

 もう何年も前になるが、私は自分が初めて『エンジェル』を試香した時の驚きを今でも鮮明に思い出すことができる。天空の水を湛えたような青い透明感のあるボトルから、喨々(りょうりょう)としたクリーンな香りを想像していたところに、突然、綿菓子に顔をうずめたような、チョコレートトリュフを口に入れすぎたような衝撃を受けた。これを本当に纏う人がいるの? -煌めく星や天使に対する私の既成概念は、美しいとも、おいしそうとも言い難い、熱を帯びて飛び出した型破りな香りにひっくり返されてしまったのだ。

 ファッションブランドであるティエリー・ミュグレーが、2年に及ぶ630回以上の試作を経て『エンジェル』を発表したのは1992年。この香水の登場は、2つの点で香水業界にショックを引き起こした。1つは、それまで花やハーブのような植物、またムスクやアンバーといった動物系香料を使用してきた香水に、初めてバニラ、チョコレート、キャラメルなどの甘いお菓子の香りを採用したこと。ここからGourmet(グルメ、食いしん坊)を語源とするグルマン系という新しい香りのグループが誕生し、その後の香りの潮流に多大な影響を及ぼすことになる。2つ目は、製造不可能と思われた斬新なガラスデザインをブロス社が実現、美しいボトルを捨ててほしくないという願いから、レフィルボトルを販売したことだ。海外にはSOURCEと名付けられたマシンで空ボトルに補充できるレフィルステーションがある。これは18世紀、キャロン社がバカラのクリスタルガラスで出来たファウンテンという装置で、上顧客に量り売りをしていたことに着想を得たもの。このアイデアは、実際に香水価格を抑え、「エンジェル」に対する顧客の愛着を深め、ミュグレーの発表によれば年間383tのごみ削減に貢献している。環境保全という意識がまだ希薄だった1990年代、ミュグレーは誰よりも先見の明に富んでいたといえる。

 好きか嫌いか、『エンジェル』は両極端に評価が分かれる香りだ。面白いことに、歴史に名を刻んできた香水には、同じような評価を受けるものが多い。クリスチャン・ディオールの『プワゾン』などもその典型だ。
 『エンジェル』の香りは、トップノートから胸中をざわつかせる。実際肌にのせると、マンダリンやメロンのフルーティーな甘さが立ち上がり軽やかな印象を受けるが、万人受けするフルーティーノートのかわいらしさはない。調香したオリヴィエ・クリスプは、ミュグレーが子供の頃、お祭りの屋台で綿菓子を食べた思い出を表現するため、爽やかな果物の香りに綿菓子の絡むような甘さと、それを刺すような屋台のメタリックな硬さを織り交ぜた。普段、お菓子の甘さは人に幸福感を与えるが、「エンジェル」のトップノートはどこか纏う人の郷愁をいざなうようなノイズがある。
 時間が経つとフルーティーな甘さは丸みを帯び柔らかくなってくるが、同時に、土っぽいパチュリが強く出て深みを帯びてくる。ラストでは、バニラやチョコレート、リキュール、キャラメルとお菓子のオンパレードとなるが、不思議と重さはなく非常に魅惑的な雰囲気を作り出すのが面白いところ。
『エンジェル』のユニークな香りの特徴は、重く渋みのあるパチュリとお菓子の甘い香りを過剰投与することで、香りの衝突を引き起こし、独特のバランスで二重性の美しさを表現している点だ。その極端なまでの手法が豊かで絶妙なグルマンノートを生み出し、好きな人は中毒になったように癖になる。
 『エンジェル』の退廃的な甘い香りは、どこまでも官能的かつフェミニン。女性が持つ強さと繊細さ、自信と脆さの二面性を存分に映し出す香りである。女性用フレグランスだが甘美な香りに陶酔する男性ファンも意外と多い。ナルシストなタイプの人には一押しの香り。

 ミュグレーにとって、星という形は、幼少期より傍にあるラッキーアイテムで、夢を具現化した最も身近なものだった。彼がファッションや香水で表現する天空は、無限大の世界であり、想像力を押し広げ新しい次元を創造する、ミュグレーブランドの精神を表現している。新しいことにチャレンジする時、想像力が乏しいと感じる時、もしこの「エンジェル」が好きならば、きっと力を貸してくれるだろう。

レビュアー 羽賀 香織(はが かおり) Kaori HAGA 2017年10月

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