review 0026 : FL オードパフューム1927 / フローリス
【香水名】FL オードパフューム1927 / 1927 Eau De parfum
【ブランド名】フローリス / FLORIS
【発売年】2018年
【パフューマー】エドワード・ボデナム / Edward Bodenham、シェラ・フォイル / Shelagh Foyle、ペニー・エリス / Penny Ellis
【香りのノート】シトラス フローラル
【香りのポイント】ベルガモット、アルデヒド、バイオレット、スイセン、ムスク、パチュリ
【レビュー対象製品・価格】オードパルファム 100ml 30,000円(本体価格)
※レビュアーが実際に試香した製品のみ記載しています。価格はレビュー当時のものです。
2018年8月1日、日本全国で発売となったフローリスの『FL オードパフューム1927』。1730年にスタートし、約300年に渡るフローリスの歴史を思うと、1927年はごく最近のことのようです。しかしその香りのテーマは、現在よりも90年前の流行をモチーフにしています。無責任で享楽主義。映画『華麗なるギャツビー』で描かれたように、アメリカでは成功を目指し、成功した若者たちが毎夜豪華絢爛な饗宴を繰り広げ、イギリスではお酒やパーティーやファッションを自由に楽しむ若者達が『ブライト ヤング シングス』と呼ばれ新しい流行を先導していました。
ムエットにスプレーして香りを嗅いだ瞬間、ここ10年ほど周囲になかった香りを感じました。それは、逆三角形のカクテルグラスに口を近づけた時に感じるマティーニやジントニックの痺れるようなセンセーションと、喉を滑り降りるカクテルのベルモットのグリーン調ハーブの味わいが鼻に抜ける時の香り。そんなトップノートには、一瞬、ドライアイスの詰まった箱を開けた時のような驚きとスリルを感じます。それを肌にスプレーするとエネルギッシュなボリュームのある香りが溢れます。ややあって、スミレのパウダリーな感覚と、イランイラン、スイセン、ミモザの官能的なフローラルがアルデヒドを伴って漂います。肌に残る香りはムスク、アンバー、そしてパチュリ。バニラがほんのりと見え隠れします。
トップノートが与える衝撃はまた、ベルガモット、マンダリンのシトラスにたっぷりと混ぜられたアルデヒドが一役買っています。まだメンズフレグランスは前の時代からのアフターシェーブローションから派生したナチュラルなシトラスハーブ調の香りが主流でしたが、女性達は一足先に大量生産が可能になった合成香料を使用した香水の魅力を満喫していました。今回、『1927年』をテーマにされているので、シトラス+アルデヒドというレシピはとても頷けます。ランバンの『アルページュ』と同じトーンでのペアフレグランスに出来そうです。そして、もうディスコンになってしまった1988年発売の、グリーンのボトルに車のギアヘッドを模したウッドキャップの『ジャガー』を愛用していた方に『FL オードパフューム1927』は手放せない香りになるでしょう。
私もフローリスの香りの中ではロマンティックな『ホワイトローズ』と、どこかノスタルジックな『ナイトセンテッドジャスミン』を香水棚に切らしたことは無く愛用しています。ロンドンのジャーミンストリートにあるフローリスの本店で大切に保管されている顧客台帳には、歴史の中でフローリスの香りに魅了されて来た多くの人々の名前と、注文リストが記されています。オスカー・ワイルド、ウィンストン・チャーチル卿、マーガレット・サッチャー、オードリー・ヘップバーン、マリリン・モンロー、ネルソン提督、イアン・フレミング、ミック・ジャガー、アル・パチーノ、オスカー・デ ・ラ ・レンタ、デヴィッド・ボウイ、ドナテラ・ヴェルサーチ、グレゴリー・ペック、ビビアン・リー、ジャクリーン・ケネディなど。
その中でも、1920年代の顧客、斬新なセンスでファッション写真家として活躍したセシル・ビートンは、こう言っていたそうです。「ラグジュアリーとは…、美しい衣服や高価な宝石などではなく、もっと”考え抜かれたこと”である。ベッドサイドに置かれた先の尖った鉛筆、そばにはボトルに半分残ったウィスキーとペリエ、そして氷。バスタブのヘリにはフローリスの香水、例えばバイオレット、もしくはガーデニア。部屋のひとつひとつのディテールがその仕上げを完璧にする」。
美しく成功を求める紳士に相応しい、選び抜かれた香りです。
レビュアー 地引 由美 Yumi JIBIKI 2018年8月