FrassaÏ (フラッサイ)創業者 ナタリア・オウテダ氏 来日イベント
FrassaÏ (フラッサイ)ブランド創業者来日イベントプレスイベントに出席させていただきました。NOSE SHOP 岸様の進行で、初来日されたブランドの創業者でありクリエイティブディレクターのナタリア・オウテダ氏のお話をお聞きしました。– 4月19日 駐日アルゼンチン共和国大使館
☑️ FrassaÏ (フラッサイ)というブランドのコンセプトは?
ナタリアさん「私は10年前にFrassaÏ (フラッサイ)をスタートしました。私の出まれたアルゼンチンという国のストーリーを世界に伝えたい、自分の経験を活かしてアルゼンチンの人々の魅力や景色の美しさを世界に広めたい、という思いからでした。また私は幼い頃から異なる文化との関わりが多くありましたので、言葉を介さない他者との関わりというものにも強い興味がありました。『香水』というものが自分の思いを一番強く投影できるのではないかと思い、このブランドを立ち上げました。」
「ラテンアメリカではニッチフレグランスは知られていないという状況からスタートしました。私の香水作りは、自分の中で強く思っていることを香りで表現しようと思っているのです。例えばタンゴなどの音楽、パンパ、ブエノスアイレス、パタゴニアなどの美しい景色など香水を使って皆様に届けたい、そんな思いを香水作りに活かしています。また私は多くの旅をしているので、アルゼンチンだけでなく世界中の美しい景色も香水で表現したいと思っております。」
☑️ブランドがデビューした2013年当時、アルゼンチン発のニッチレグランスは業界でも初めてということでかなりの注目を集めました。どのような反響がありましたか?
ナタリアさん「とてもウェルカムでポジティブなリアクションが多かったように思っております。心に残っているのは、香水評論家のルカ・トゥリン氏が、私の今までの香水作りにかける思いなども評価をして、興味を持ってくださったことです。私は2005年から香水業界にいるのですが、ロレアル パリや、P&Gなどの香りを研究する部署で働いていましたが、それらも自分の中で大きな経験だったと思っています。また、私が香水作りの中で大切に考えているのが『愛と情熱』なのですが、多くの方が『愛と情熱』を持って接してくださったことも、私の心の中に残っております。」
岸さん「今のお話の中に、匂いの帝王、ルカ・トゥリンさんの評価をいただいたと言うエピソードがありましたが、実際に彼がどの様なことを書かれているのかをシェアしたいと思います。世界香水ガイドの中に、フラッサイの初期の香りが三つ掲載され、全てが高評価を得ており、その中にナタリアさんについて言及されている箇所があります。
「ナタリアさんは、かつてニューヨークのジボダン社で働いていたようだ。おそらくエバリュエーターやアートディレクターを務めていたに違いない。彼女の香水からは、はっきりとした目標を持ち、細部にも手を抜かず、調香師の強みをよく理解している人物が手がけた印象を受けるからだ」
と言う文章があります。今のナタリアさんの『愛と情熱』を大事にしていると言うお話が、まさにルカ・トゥリンさんにも伝わったことが、記されています。
ここからは実際に FrassaÏ (フラッサイ)の香りをご紹介していただきました。
☑️『ベラノ ポルテーニョ|ブエノスアイレスの夏』
ナタリアさん「南米のパリ」と称されるブエノスアイレスの美しい景色を表現した香水です。「ポルテーニョ」は、ブエノスアイレス出身の人のこと。ブエノスアイレスの街は生命力溢れるイキイキとした街で、タンゴも有名です。その様なイメージをこの香水の中に込めました。ノートはベルガモットやカルダモン、ジャスミンやベチバーといった構成で、ブエノスアイレスの暑い夏にもぴったりの爽やかな香りだと思っております。また、ブエノスアイレスの文化の象徴とも言えるマテの香料を使用しています。」
☑️『ティセンドゥ|追憶のケーキ』
ナタリアさん「私にとって個人的なストーリーがあるとても特別な香りです。この香水では、パタゴニア出身の私の祖母が作った黒いケーキの香りを表現しました。もちろんケーキの香りだけでなく、美しく暖かい思い出として残っている祖母と過ごした時間や、祖母からのハグであったりとか、そういったものもこの香水の中で表現できたらと思って作りました。この黒いケーキはおそらくアルゼンチン以外の方はあまりご存じないかと思いますが、この香水は祖母が作ってくれたそのケーキのレシピをもとに作っています。香りの一つの特徴としてはミモザを使っているということ、そしてシナモンなどのスパイスも使用しています。甘い香りだけでなくジュニパーベリーやウッディ系の香りも取り入れております。私の心の中の特別な思い出で作った香水で、皆さまにもこの思いを感じていただけたのか、ブランドの中で最も売れている香水です。
☑️『クイール パンパス|大草原の革』
ナタリアさん「2020年のパンデミックの間に展開したコレクション『エル スール コレクション』の中の一つの香水で、アルゼンチンの自然界のリズムに心を動かされてのクリエイションです。アルゼンチンには息を呑むような景色がたくさんあり、北から南にかけて美しい自然や美しい人々と出会うことができるのですが、その中でも特にこの『クイール パンパス』はガウチョという人々、優雅でありながらも自然と共に生きる遊牧民の姿を表した香りです。自然の中で感じられるグリーン香などを閉じ込めた香水です。」
☑️『ヴィクトリア|アルゼンチンの女傑』
ナタリアさん「こちらは、次に発表する新作の前に作られた香水です。香水の創作活動については、私は本当にゆっくりと、時と場所など様々なものを吟味しながら作っているのですが、今回の『ヴィクトリア』と言う香水については、アルゼンチンの女性、ヴィクトリア・オカンポと言う実在する女性からインスピレーションを得て作った香水です。この女性は文芸誌『スール』を創刊し、ラフマニノフ、チャイコフスキー、バージニア・ウルフといった20世紀に活躍した芸術家の作品を多数掲載しながら、彼女自身の政治的な思いや意見を表明した、特別な独自の生き方をしたとても強い女性のイメージをこの香水の中で表現しようとしております。甘いフローラルノートで女性らしい香りを表現しつつも、ウッディで重い、フラワーと対比するような香りを用い、女性らしい部分と彼女の闇の部分、その二面性をこの香水の中で表現しています。」
岸さん「『ヴィクトリア』は政治的に女性が声を上げるということを具体的に行なったアルゼンチン初めての女性を体現した香りと言うことで、まさにこれまでにないコンセプトで作られた香りではないかと思うのですが、これに続く最新作が『ドルミール アル ソル』です。完成したばかりの香りをお試しください。」
☑️『ドルミール アル ソル』
ナタリアさん「『ドルミール アル ソル』(=太陽の下で眠る)で一番表現したかったのは、『今』と言う時を楽しむこと、その様な思いでこの香水を作りました。香りの特徴としてはまずトップのライムとフォレストペッパーで、爽やかな香りを楽しんで頂けると思います。そして、パウダリーなグリーンノートを持つ花、野生的なミモザのアブソリュートの魅力。そしてベースノートに続くパートにはブランデーやグランチャコ産のガイヤックウッドを使いました。現代の私たちはいろいろな時を生きていると思いますが、一瞬一瞬、その時を楽しむ、そんな思いを込めてこの新作を作りました。」
アメリカやヨーロッパ、アジア各国でもすでに展開を始められていますが、特に日本の人々におすすめしたい香りは?
☑️『ア フエゴ レント|情熱の炎』
ナタリアさん「一つ目が『ア フエゴ レント|情熱の炎』です。私の中でも個人的にお気に入りの香りなので紹介したいのですが、この香りはタンゴから着想を得て作った香水です。夜の闇に燃え盛る炎を見て心に浮かんだ、情熱的な情景をこの香水で表現しました。パッションを感じさせる香りとしてジャスミンやカシスなどを使っております。」
☑️『エル デスカンソ|黄金の麦畑』
ナタリアさん「そしてもう一つの香りが『エル デスカンソ|黄金の麦畑』です。こちらも『エル スール コレクション』の中の一つの香水で、ユニセックスで使っていただける香りですが、特に男性の方には男らしい香りとして使っていただけると思います。白いシャツから香る、そんなイメージで香らせていただけると良いと思っております。」
岸さん「『ア フエゴ レント|情熱の炎』は甘美なお花の蜜っぽさであったり、華やかさをご体験いただけるのでないかと思っております。また『エル デスカンソ|黄金の麦畑』は 黄金の麦畑 と言う副題の通り、どこかブランの香ばしさであったりクリーミーな要素を感じていただけるのではないかと思っております。ナタリアさんがセレクトしてくださった日本人の方におすすめの香りと言うことですので、その違いを楽しんでいただきながら、ぜひ試していただければと思います。」
☑️洗練されたミニマムなデザインにもファンが多い FrassaÏ (フラッサイ)のビジュアルに込められた思いについて
ナタリアさん「香水のボトルやデザインはとても重要だと思っています。その香水で使っている自然素材やその質、ストーリー、そういったものを体現する一つがボトルのデザインです。四角いボトル、これは安定を意味しています。そして特徴的なのはボトルの角にラベルを貼っているところですが、これは別の視点を与える、と言う意味が込められています。私たちは皆、それぞれ違う個性を持っていて、好きな香水の香りと言うのもそれぞれ違うと思います。自分の好きな香りを纏うことで人との違いが生まれる、その様な視点の違いというものをラベルの位置に込めました。香りとは、私たちの心や精神に届くものであって、それを受け取る一人一人が違う感性を持っていると思います。その様な違いというものも、私のブランドの中で大切にしている思いです。またこのボトルの上のキャップの部分が木で作られているものについては、木は地球を表現する普遍的なものであり、人生で私たちが経験する香りと言うものもまた普遍的であるという思いを、木のキャップに込めております。」
☑️制作の裏側にまつわる質問になりますが FrassaÏ (フラッサイ)のサスティナブルな取り組みは具体的にはどのようなことを行なっているのでしょうか?
ナタリアさん「サスティナブルな取り組みについては、いろいろな側面や層があると思うのですが、すぐに気づいて頂ける点においては、木のキャップにはリサイクルされた木材を使用し、パッケージは簡素なものにし、箱を覆うセロファンのラッピングは行わないなどの取り組みをしています。香水を作る材料についても、なるべく自然素材を使うということはもちろんのこと、製品は小ロットの生産であることもこのブランドの特徴となっております。大量に生産してそれが残ってしまい廃棄になると、それもまた環境への負荷がかかることになるので、香水を作るときは常に少ない生産数にしております。また、私のこの香水は人との関わりであったり、自然とのつながり、そういったものを大切にして生産しているということも特徴の一つとなります。今回お話しさせていただいたように、香水作りの原点であったり、インスパイアを受けているものは自然ですので、その自然に感謝しながら、環境を大切に香水作りを続けることが、私の一番心がけていることです。」
☑️調香師はナタリアさんが選定されているそうですが、判断の軸にしていることはなんでしょう?
ナタリアさん「これまでにも長く調香師と働いてきた経験がありますので、私が一番大切にしているのは調香師との関係性であり、長く良いコミュニケーションが取れるかどうかということも大切にしています。香料会社で働いた時の繋がりのあるパフューマーともう一度仕事をするということもよくあります。例えば『ティエン ディ|天と地』(=中国の崑崙山がインスピレーションの不老長寿の桃がコンセプトの香り)を調香したオリビエ・ギロタンと最初に働いたのはラルフ ローレンの POLO のプロジェクトでした。ビジョンを共有できるということ、何か良いものを作りたいという思いを共有できる人、そして香りを通じて一緒にハーモニーを届けたい、一緒に働いてビジョンを実現させたい、自分が思い描く美を体現してくれる、そういう人に調香をお願いするようにしています。もちろん、調香師の方一人一人には強みがありますので、その強みも活かしながら選定を行なっているのですが、私自身の哲学、スローライフという生き方に沿う調香師であること、それも大事な軸となっています。香水は単なるアクセサリーでなく、香りを身に纏うことでエネルギーを得たり、癒されたり、自分の気持ちを変えてくれたり、そのような力があると思うので、そんな香水を一緒に作ってもらえる方に調香をお願いしております。」
☑️ FrassaÏ (フラッサイ)のブランドコンセプトの『独立した人に贈られるタイムレスでスローな香水』、そして新作『ドルミール アル ソル』に込めた思いはどのようなものでしょう?
ナタリアさん「もちろんビジョンとしては、美しいアルゼンチンを世界に届け続けること。これは自分の中で大きな思いとしてあります。そして今回の新作『ドルミール アル ソル』につきましては今の自分自身の状態を体現していると思っております。その意図としましては「スローライフ」という自分の中の大きな価値観が影響しています。例えば、NOSE SHOPのお店の中には本当にたくさんの香水が並んでいて、様々な香りに包まれることができると思いますが、私自身は新しい香水をどんどん作り続けるというよりは、今の自分の身近にあるものに感謝をしながら、時には昔に戻りつつ、昔作った香りであったり、既にある香りに感謝したりもう一度訪ねてみて、そこからインスパイアされるということもあると思います。その様な生き方をこれからもしていこうと思っています。また、私は旅行がとても好きなので、アルゼンチンに帰った時はいろいろなところへ旅行します。もちろん日本に初めて来たこの機会というのも大きなものですので、もしかしたら日本の香りからインスピレーションを受けて新しい香りを作るということもあるかもしれませんが。そういった旅行であったり自然から得るもの、そして今までにある香水をもう一度訪ねてそこから着想を得ること、ゆっくりと自分のペースで生きて、香水作りをしていくことを大切にしていきたいと思っております。」
✅ 会の後で…
今回の発表会は、港区元麻布にある駐日アルゼンチン共和国大使館で行われました。歓談の時間に室内の装飾や展示されているアルゼンチンのアーティストの作品を拝見することで FrassaÏ (フラッサイ)が誕生した、アルゼンチン共和国という国への理解が深まりました。『ベラノ ポルテーニョ|ブエノスアイレスの夏』の処方の中で「マテ」には特に(アルゼンチン産)と生産国が表記されていますが、淹れたてのマテ茶も輸入代理店の方の説明をお聞きしながら試飲させて頂くことができました。室内の立派な彫刻がなされた仕切り扉や大きな暖炉などは、六本木ヒルズの建築時に大使館が移転を余儀なくされた際に、運搬して現在の場所に大切に移設されたというお話をお聞きしましたが、それは昔からあるものを大切にしたいというナタリアさんの思いと重なる様でした。香りと共にアルゼンチンという国の魅力も満喫させていただけた、文化的な贅沢さを感じる発表会でした。
🖋 JIBIKI’S SENSATION
これまでに私が愛用していたFrassaÏ (フラッサイ)の香水は『ブロンディーヌ|勇気と希望のおとぎ噺』と『ヴィクトリア|アルゼンチンの女傑』です。前者はフランス系クラシカルな系統をみずみずしいフルーティグルマンノートで構築したロマンティックな香り、後者は草の持つ苦味や温かな火の香りを感じるキリリと引き締まりつつも奥行きの深い凛々しいノート、と香りの印象はそれぞれに異なりますが、どちらも勇気ある女性をテーマにした香りでありながら、とても優雅な気持ちにさせてくれます。2019年にルカ・トゥリン氏にお会いした時に「香りそのものにジェンダーはないけれど、女性のパフューマーの活躍は目覚ましいものがあり、私はとても期待しているのです。」と仰っていましたが、その時、彼はきっとナタリアさんのことも思い浮かべていたのではないかと思います。評論家だけでなく調香師からの信頼も厚いのは、名だたるブランドの香水を創り上げてきたカリス・ベッカー氏が「ナタリアは親切で、有能でプロフェッショナルです。彼女と一緒に仕事ができるのは本当に嬉しいことです。」と述べていることからもわかります。
最新作の『ドルミール アル ソル』は、果汁たっぷりのメロンの果肉を思わせるトップノートから生命力を感じる咲き誇るミモザの香りへ。ミモザをこの香りのコアの一つとして選ばれたのは、1865年5月28日、150人のウェールズ移民がリバプールからパタゴニアまでの長旅に出発するのに乗船した帆船の名前が『ミモザ号』であったことも、関係しているのかもしれません。ラストノートのベチバー、パチュリ、サフランに感じるのは穏やかさとゴージャス感。スリリリングでありながら呼吸が深くなる様な魅惑的な香りです。 地球の反対側のアルゼンチンで生まれる新しい香りの、この夏の発売が待たれます。
地引 由美