review 0019 : SAKURA / Miya Shinma PARUFUMS(ミヤ シンマ パルファン)
【香水名】: SAKURA
【ブランド名】Miya Shinma PARUFUMS
【発売年】:2016年
【パフューマー】:新間美也
【香りのノート】:フローラル フルーティ
【香りのポイント】:シトラス、ローズエッセンス、ピヴォワンヌ(シャクヤク)、ローズアブソリュート、カシス
【レビュー対象商品】: オードパルファン 55ml 18000円
※レビュアーが実際に試香した製品のみ記載しています。価格はレビュー当時のものです。
新入生、新生活、新社会人…と聞いて連想する花は何だろうか?恐らく多くの日本人は“桜”と答えるだろう。年度制に従って4月を年度初めとする日本では、私達の生活に関係する多くの場面で春の訪れと共に新しいスタートを告げる象徴的な花になっている。そして古の時から現代にいたるまで、これほど開花を心待ちにされる花は世界に類を見ないのではないだろうか。今回は、日本人パフューマーのブランド『Miya Shinma PARFUMS』から、日本文化にとって特別な、この桜の香りをイメージした『SAKURA』をご紹介する。
フレグランスは、やはりフランス・イタリア・アメリカ等の海外ブランドの人気が日本でも根強いかと思う。現代になじむ香り、効果的な宣伝、ブランド力等、様々な理由があげられるだろう。しかし何と言っても、日本人が洋風の香りに魅力を感じ、和風の香りに距離を置くのは何となく“古くさい”“あかぬけない”といった印象を少なからず抱くからではないだろうか?畳・お線香・白檀・ヒノキ等のように日本的な香りは、精神的な落ち着きを得られる一方、フレグランス製品でその独特な香りを主張されると苦手であったり、日常使いが難しかったり等の理由で手に取ることが無い、という私のような方も少なくないと想像する。
『SAKURA』は和の要素を備えながらも、普段使いできる稀な存在。パフューマーは新間美也氏。幼少期・学生時代を過ごした日本の文化や自然にインスピレーションを得て、和的要素を巧みに織り交ぜた繊細な香りは、海外でも非常に評価が高い。現在はパリを拠点に活躍し、ブランド『Miya Shinma PARFUMS』を展開している。
まず外観から、日本文化・伝統を意識していることは見て取れる。内側も外側も漆塗り思わせるような艶やかな漆黒の箱。蓋の表には純白で香水名・ブランド名が書かれていて、白と黒の明瞭なコントラストがシックな印象を受ける。ボトルは角瓶に、銀色のキャップと非常にシンプル。ボトルの中心は、一部が四角くすりガラスのようになっていて、毛筆で一筆書きしたような桜の花が一つだけ描かれている。箱もボトルも、日本画を意識したような“余白の美”に通じるデザインで、眺めているだけでわびさびを感じずにはいられない。
桜がテーマの香りは海外ブランドでも扱われており、綺麗な花をイメージできる良い香りなのだが、日本の桜がはっきりと浮かんでくることは無かった。どこか洋を強く感じ、海外の日本庭園や米ワシントンに咲くCherry Blossomのように、日本で見る桜とは何かが違った。満開の桜の下でも香りを感じないのだから、桜の香りはあくまで想像の世界。しかし繊細で芯が強く、儚く刹那的な“日本の美”が表現された、しかも現代に合った桜の香りは無いものかと考えていたところで出会ったのが『SAKURA』だった。
最初は、シトラス調の爽やかなスッキリとした香りの後ろを、ローズ×ジャスミンを掛け合わせたような軽やかな甘さと少し青っぽい香りが慎ましく追いかけてきて、清々しく凛としている。トップが落ち着くと、ピヴォワンヌ(シャクヤク)の淡く涼やかな甘さとタイムや樟脳のような薬っぽい清涼感が強まり、和の印象が濃くなってくる。段々と全体がまろやかになり、清涼感はそのままに温かみのある香りへ変化してくる。ラストはベビーパウダーに似たほのかな甘さが、柔らかくローズを包み込むような奥ゆかしい香りに落ち着く。香りの変化と共に、頭に浮かぶ桜のイメージも三分咲き~五分咲き~満開、そして儚く舞い落ちる花びらのように移ろってくる。
『SAKURA』をつけた瞬間、着物の帯をギュッと締められたように感じ、思わずすっと背筋を伸ばして良い姿勢を意識してしまった。匂い袋やお香のような純和風の香りはしないのに、和を感じられ、しかもローズの香りから日本の桜をイメージさせてしまうことに驚く。全体の印象はしなやかで柔らかく、そして静か。謙虚だが、芯の強さを感じる。いにしえの時から日本文化が培い共有してきた、桜に対して抱く日本人の美意識と感性が凝縮されている日本の桜の香りだ。『SAKURA』は、まさしく“日本の美の香り”。
両手首に1プッシュした場合、5~6時間経つと、肌から約3cmの距離に近づいて僅かに香りを感じるくらいになる。個人的には付け足しをせず、微かに残る香りに桜の儚さを重ねて余韻を楽しんでいるが、リタッチをして、移ろう桜の美しさを再び楽しむのも良いだろう。
無常な美しさを見事に表現する『SAKURA』に、何となく過ぎていく繰り返しのような日常も、いずれ終わりがくることを意識させられる。1日1日を丁寧に美しく。たおやかな香りが益々貴女の美意識や人生の充実度を高めてくれるに違いない。
レビュアー 新咲 清香 Kiyoka NIISAKI 2018年3月