review 0022 : ルジュール・スレーヴ / ルイ・ヴィトン
【香水名】ルジュール・スレーヴ / LE JOUR SE LÈVE
【ブランド名】ルイ・ヴィトン / LOUIS VUITTON
【発売年】2018年
【パフューマー】ジャック・キャバリエ / Jacques CAVALLIER
【香りのノート】シトラスフローラル
【香りのポイント】マンダリン、ジャスミンサンバック、マグノリア、モクセイ、ブラックカラント、ムスク
【レビュー対象製品・価格】オードゥ パルファン 100mL 30,000円(本体価格)
※レビュアーが実際に試香した製品のみ記載しています。価格はレビュー当時のものです。
2016年9月、マスター・パフューマーのジャック・キャヴァリエによって創造されたオー ドゥ パルファン 全7種が、メゾン ルイ・ヴィトンのフレグランスコレクション、『レ・パルファン ルイ・ヴィトン』として発売されました。
それに先立つこと3ヶ月、その年の6月に紀尾井町で開催された『EXHIBITION LOUIS VITTON TOKYO』でいくつかのルイ・ヴィトンの香水瓶を見ました。1927年の『HEURE D’ABSENCE(=余暇の時間)』 。 1930年頃の『SUR LA ROUTE(行程)』。中でも、” LOUIS VITTON PARIS 10, CHAMPS ELYSEES” と記されたボックスの横に展示されていたシンプルなスクエア型ボトルの『EAU DE VOYAGE(旅の香り』 。そのボトルの底にほんのわずかに残った褐色の液体を見て「ルイ・ヴィトンの『旅の香り』を嗅いでみたい」と強く思いました。それは新しい香りへの渇望のプレリュードとなりました。
創業者ルイ・ヴィトンは少年の頃に愛する母親を亡くし、継母と馴染めなかったことから、家を出たいという衝動を加速させました。1835年、14歳の時に家を離れ最初の旅に出ます。16歳でパリに辿り着いてから、当時の旅行の際の必需品だった、荷造り用木箱製造 兼 荷造り職人の見習いを始めます。
VOLEZ (空へ)
VOGUEZ (海へ)
VOYAGEZ(彼方へ)
彼の人生がそうであり、1960年代のポスターに力強く記したように、旅はいつもルイ・ヴィトンのテーマです。
2016年9月1日のフランス本国での発売に続き、日本でも同年9月15日にルイ・ヴィトンの70年振りとなる香水が発売されました。グラース生まれで、調香界のモーツァルトと呼ばれる天才的な香水創りで数々のブランドで名香を生み出して来たジャック・キャバリエ氏は2013年の1月にルイ・ヴィトン専属のマスターパフューマーとなり、香りのインスピレーションを探して世界中を旅した後に7つの香水を創作しました。
そして、2017年3月に『ルジュール・スレーヴ / LE JOUR SE LÈVE』が発売されました。
丸い朝日のようなマンダリン。ジャスミン サンバックに、フレッシュなブラックカラント。スプレーした瞬間、弾けるようなマンダリンの香りが広がり、すぐに清潔感のある石鹸のようなフルーティな香りへと変化します。やがてゆっくりとジャスミンの香りが現れますが、華美なフローラルノートにはならず、マンダリンと馴染んで優しく香り立ちます。朝のシャワーのあとの、リヴァイタライジングされて新しい活力を与えられた肌の香りのようです。
かすかなウッディノートは、創業者ルイ・ヴィトンの出身地、ジュラ地方の深い森の香り。または、長い旅の間、トランクに収められた衣類や大切な本を損なわない為に選ばれた、害虫予防の為の樟脳や、香りの良い紫檀などの木への敬意でしょうか。
『ルジュール・スレーヴ / LE JOUR SE LÈVE』=「陽は昇る」という意味のこの香水の液体の色は、朝日が昇るとともに染められながら青空へと変化する一瞬の空の色のようです。ジャック・キャバリエ氏は、毎朝必ず自宅のテラスに出て大きく息を吸いながら目の前の自然の香りを感じ、その後、いくつかの香りを試すそうです。これはまるでアスリートのトレーニングのように毎日の日課だとのこと。彼が感じとった南仏の『朝の香り』のニュアンスも、この香水に込められているのではないでしょうか。
朝日のオレンジ色は、アメリカでは朝食に欠かせないオレンジジュースを思わせ、南仏や地中海沿岸の国々ではたわわに実るオレンジを輝かせます。日本は “Le pays du soleil levant” (日出ずる国)と呼ばれ、元日には初日の出を拝む慣習があります。また、中国ではマンダリンは縁起の良い果物として喜ばれ、清朝のマンダリンと呼ばれる官吏が着用していた服の色もこの果実の色でした。アジアも強く意識し、アジア人々の好みに合うようにも調香されたこの香りは、女性も男性も喜んで纏うことが出来るでしょう。
最近は何時、昇る朝日を見ましたか?都会のビルの窓から?富士山の山頂から?水平線から?それぞれに朝の太陽の姿を思い浮かべることが出来るでしょう。私は今月のグラースへの旅の途中、パリのシャルル=ドゴール空港で乗り継ぎ便を待つ間、目を見張るような大きなオレンジ色の太陽が地平線からゆっくりを姿を表すのを見て、旅への期待が大きく膨らんで行きました。『ルジュール・スレーヴ / LE JOUR SE LÈVE』は、パフューマーの繊細なテクニックで調香された、夜を朝に変える太陽の力を纏えるフレグランスです。そしてあなたに、これまでで一番素晴らしい朝日を見せてくれることでしょう。
レビュアー 地引 由美 Yumi JIBIKI 2018年5月