review 0053 : ローズ オードパルファム / Rōzu Eau de Parfum
【香水名】ローズ オードパルファム / Rōzu Eau de Parfum
【ブランド名】イソップ / Aēsop
【発売年】2020年5月
【パフューマー】バーナベ・フィリオン / Barnabé Fillion
【香りのノート】フローラルスパイシーウッディ
【キーとなる香り】
トップノート:ローズ、プチグレン 、ベルガモット、ピンクペッパー、シソ
ミドルノート:イランイラン、グアヤクウッド、ジャスミン
ラストノート:ベチバー、パチュリ、ミルラ、サンダルウッド、アンバー、ムスク
【レビュー対象商品】オードパルファム 50ml 18,000円(本体価格)
※レビュアーが実際に試香した製品のみ記載しています。価格はレビュー当時のものです。
【オフィシャルサイト】
https://www.aesop.com/jp/p/fragrance/rozu/r-zu-eau-de-parfum/?cta=product-rozu
1987年創業のイソップ。ボタニカルスキンケアブランドとしてその評判は高まり、90年代半ば頃から、日本でもその名が多くの女性の口から囁かれる様になったと記憶しています。特にボディクレンザーとハンドクリームは大人気でした。2005年に発表されたブランドとして初のフレグランス『マラケッシュ オードパルファム』は、スパイシーなアクセントとエナジー溢れる感覚が強く印象に残っています。『マラケッシュ オードパルファム』の後、2006年に『ミストラ オードパルファム』(製造中止)、2014年に『マラケッシュ インテンス オードパルファム』、2015年に『タシット オードパルファム』。2017年に『ヒュイル オードパルファム』が発売されました。それぞれに大地やその風景や空気感を大胆に捉え、繊細に表現した香りです。そして、今年2020年に『ローズ オードパルファム』が発売となりました。
さて、香水には香りで表現すべき何らかのテーマがあります。それが人物で、かつ女性である場合は ミューズと称されたりします。今回の『ローズ オードパルファム』のミューズは、20世紀を代表するフランスの建築家でありデザイナーのシャルロット・ペリアン。1903年、服飾職人の両親の元に生まれた彼女は、1927年、モダニズム建築の巨匠、ル ・コルビジェのアトリエに加わり、1920年代から90年代までその実力を存分に発揮して活躍します。流行のファッションに身を包むばかりでなく、スペイン内戦時にはパブロ・ピカソ、フェルナン・レジェなどキュビズムの芸術家とコラボレーションした作品を発表するなど、時代の流れの中で信念を持った創作活動を続けます。ル・コルビュジエのアトリエで同僚だった日本の建築家、坂倉準三の推薦により、1940年、フランス商工省の工芸指導顧問として初来日した彼女は、工業化が進み、定量生産品が広まり始めた当時の日本で、手仕事の文化を重んじた民藝運動の父、柳 宗理とともに日本全国をまわりました。
このシャルロット・ペリアンに捧げられたローズがあります。それは、ヨーロッパでバラの育種を学び、2007年から独自の世界観を表現したオリジナル品種の「和バラ」の発表を始めた國枝啓司の手から生まれたローズです。日本とフランスの文化交流の灯火のようなそのローズは、切り込みのある花弁とエレガントなブラウンベージュ~シャンパンゴールドの色という特徴を持つ「和バラ」。このローズが生まれるまで、國枝氏は今はお嬢様が住むシャルロット・ペリアンが最後の時を過ごした家を訪れたり、パフューマーのバーナベ・フィリオンが滋賀県にある國枝氏のローズ ファーム ケイジを訪れたりされたそうで『ローズ オードパルファム』の誕生の舞台裏にも美しい日仏交流があったことを知ると嬉しく思います。
『ローズ オードパルファム』をスプレーして肌にのせると、爽やかなエネルギーを感じます。シンプルなリフレッシュ感だけではなく、同時に深いリラックスも感じます。自然と呼吸が深くなり、心が強くなるような気分です。エレガントなローズと溶け合うアロマティックなシソの香り。ピンクペッパーはイランイランの妖しさにアクセントを与えています。グアヤックウッドからベチバーへの展開は大地の豊かさを感じさせ、バラの香りの特徴の一つであるミルラの香りへと繋がりトップノートを思い出させ、まるで永遠に続くメビウスの輪のようです。自然の植物の香りを香水という製品の中で最大限効果的に活かす、パフューマー、バーナベ・フィリオンの独自のテクニックを感じます。
COVID-19に係る緊急事態宣言の終わり頃の5月末、久しぶりに家族以外の人と対面で話す場で何となく緊張していたのですが、肘の内側につけていた『ローズ オードパルファム』の香りをこっそり嗅いだ瞬間、言葉がスラスラと出てくるようになりました。香りを嗅いだ瞬間、ふっとリラックスしてパワフルになれたのです。感覚や思考がクリアになった感じがしました。湿度の高い梅雨時や、気温の高い真夏日にも香りを纏ってみましたが、肌に残るウッディなラストノートは石鹸調の香りとは異なり、体臭と混ざり合っても清潔感、安心感を感じさせます。
2015年の映画『マイ インターン』をご覧になった方も多いのではないでしょうか。作中でアン・ハサウェイ演じる主人公ジュールが、自分が経営する会社と家庭の幸せの為に大きな決断を迫られた時、バスタブの中で一人涙にくれるシーンがありました。家庭の幸せの象徴であるバスルームの棚に、イソップの製品が置かれているのに気がついた方も多かったのではないでしょうか。若い方も年配の方も、どの性別の方にも愛されるのがイソップの製品。最新作の『ローズ オードパルファム』も、現代を見つめ、新しくしなやかに活躍するすべての人の為の香りであることは間違いありません。
レビュアー 地引 由美 Yumi JIBIKI 2020年6月