review 0028 : カオソックの朝霧 / エラ ケイ パルファム
【香水名】カオソックの朝霧 / BRUMES DE KHAO-SOK
【ブランド名】エラ ケイ パルファム / ELLA K PARFUMS
【発売年】2017年
【パフューマー】ソニア・コンスタン / Sonia CONSTANT
【香りのノート】フレッシュフローラルウッディ
【香りのポイント】セダー、サイプレス、スパイダーリリー(曼珠沙華)、ガーデニア
【レビュー対象製品・価格】オードパルファム 70ml 25,000円(本体価格)
※レビュアーが実際に試香した製品のみ記載しています。価格はレビュー当時のものです。
季節が変わる度に新しい何かが欲しくなるという女性は多いでしょう。それは洋服であったり、靴であったり、バッグであったり。またはふと目に止まった何気ない、でもデザインに惹かれるメモ帳だったり。中でも無性に新しい香水が欲しくなる、という時は何かの変化を予感しているのかもしれません。これまでに無いほどの猛暑となった2018年の夏を迎える前、6月の終わりに求めた香水は、暑さの中で1日に何回でも纏いたくなるような美しい香りでした。それは『カオソックの朝霧 / エラ ケイ パルファム』。ジボダン社のシニアパフューマー、ソニア・コンスタンが2017年12月にスタートしたこのブランドは、同時にパリ1区の美しい歴史的建造物、パレ ロワイヤルの回廊に、パトリック・ノルゲによるデザインのブティックをオープンしています。香料会社に所属して、オーダーに従って様々なブランドからの香水を創作しながら、同時に自分のブランドを立ち上げる、そんな選択を実現出来るのは強い意志と時機を見る才覚、そして愛される才能があるのだと想像します。さらにあくなき冒険心。彼女の香水の創作のテーマは、パートナーであるオリヴィエと共に世界中を巡る旅にあります。
オリヴィエと話すと、彼がソニアの才能を誇りに思っていることが強く伝わって来ます。オリヴィエ自身も柑橘類を専門に抽出する世界的に有名な香料会社に勤務し、さらに、彼の姉もラグジュアリーブランドのインハウスパフューマーという素敵な関係性があります。
本国のサイトには、雄大な自然の画像と、ソニア・コンスタンが憧れた歴史に残る女性冒険家の名前が挙げられています。アレクサンドラ=デビッド・ニール(冒険家)、エラ・マイヤール(ジャーナリスト)、アンヌ=マリー・シュバルツェンバッハ(写真家)、そしてアメリア・イヤハート(航空士)、カレン・ブリクセン(小説家)…ただ、どの女性もそのキャリアは( )内の肩書きだけに収まらない、時代の先を行く人生です。
『エラ ケイ パルファム』のそれぞれの香水は、ソニア・コンスタンが主人公である冒険小説のあるシーンに流れる香りのよう。『カオソックの朝霧』の舞台はタイのカオソック国立公園です。世界最古のジャングルの一つと言われる熱帯雨林と、豊かな水をたたえるチャオラン湖。セダーとサイプレスの香りを含んだ涼やかな霧が立ち上がった後に、まるで夜明けの風景を描いた水彩画のやさしい色合いのようにスパイダーリリーと瑞々しいガーデニアが香ります。
日本人の好むヒノキと、樟脳のようなす〜っとした爽快さを感じるトップノートから、透明感のあるフローラルに変化していき、そのまま蜃気楼のように消えていく香りは、まさに朝霧のよう。大人が纏うのに相応しい爽やかさがあります。
そして立秋が過ぎた今はまた、揺蕩うようなウッディノートをなんとも心地よく感じられるのです。そこには夏の疲れを癒してくれるような包容力を感じます。
パッケージに描かれた詩。大阪で活動する中田 仙次郎 氏によるイラスト。ロゴマークのトンボは、キャップの天面とボトルの前面に描かれたブランドのロゴはトンボ。勇気と勝利の象徴とする日本への敬意を込めてくれたそうです。
自然をテーマにして、パフューマーとしての戦略、テクニックを駆使して生み出されたこの香りは繊細で力強く、この夏は完全に屈服してしまいました。纏う香りを選べるのは贅沢な喜びであり、季節に、自分の心に、その香りが最高のものであった時の喜びといったら。私の2018年の夏のベストフレグランスです。
レビュアー 地引 由美 Yumi JIBIKI 2018年8月