review 0017 : エバーブルーム オードトワレ / SHISEIDO
【香水名】エバーブルーム オードトワレ / EVER BLOOM Eau de Toilette
【ブランド名】SHISEIDO
【発売年】2016年 (日本国内は2017年)
【パフューマー】オーレリアン・ギシャール / Aurelien GUICHARD
【香りのノート】ホワイトフローラル
【香りのポイント】シャクヤク、モクセイ、シクラメン、ムスク、オレンジブロッサムアブソリュー ト、クチナシ
【レビュー対象製品・価格】オードトワレ50mL ¥9,000(本体価格)
※レビュアーが実際に試香した製品のみ記載しています。価格はレビュー当時のものです。
私が初めて「エバーブルーム」と出会ったのは、2016年11~12月に東京銀座の資生堂ビルで開催された『Les Parfum Japonais -香りの意匠、100年の歩み―』の展示会場でした。資生堂という社名は、漢方医の家に生まれ、西洋薬学を学んだ創始者福原信三が、西と東の融合“資生”から万物が生まれるとの思いを込めて名付けたもので、そのDNAを感じる内容でした。戦後から現代までの香水瓶約50点を「悠・優・誘・遊・幽」の5つのキーワードでグループ化して展示したユニークな企画で、資生堂が目指してきた「商品の藝術化」がどのように現代まで受け継がれてきたかを見ることができました。
それまでにも、国内外の香水瓶展をいくつもみてきましたが、閲覧中、今まで見てきた香水瓶と何かが違うとずっと考えていました。そして最後に「エバーブルーム」を見た時、ここの香水瓶は「立ち姿」が違う、と思ったのです。装飾のないシンプルなボトル、流れるような字体と手のひらに寄り添うようなガラスの感触、香りは分からないのに、面と線だけが生み出す空気に確かにある匂い。美術館とは異なる展示の仕方や、資生堂ビルの内装本来がもつ開放的なスペースも演出効果に一役買っていたのでしょう。それにしても「エバーブルーム」の有り様は、まるで『立てば芍薬、座れば牡丹、歩く姿は百合の花』に見えたのです。
もともと「エバーブルーム」の構想は、初代社長福原信三の弟、福原路草が撮影した白黒写真、一輪の花「椿」(1940年)がもとになっています。そこにあるのは日常にある一輪の花だけです。その一輪花の香りが空間を支配する様が「エバーブルーム」のイメージになっています。テーマは「内なる美の開花」。女性の永遠のシンボルとなるのがブーケではなく一輪の花と捉えているところ、またフレグランスがインナービューティーを引き出すものとして考えられたところが、とても日本的です。調香師オーレリアン・ギシャールは、彼が考える”SHISEIDO WOMAN”を2つのアコードで表現しました。多くの香水は、構造がピラミッド型(トップ・ミドル・ラスト)で調香されますが、「エバーブルーム」はサークル型(内円と外円)で構成されています。最初に広がる「ラディアンス・アコード(外円)」はすっきりした印象のシクラメンやシャクヤクの香りが立ち上がり、すぐに金木犀がそれを下支えするように甘さを加えながら開花する輝きを表現しています。柑橘系の爽やかさはありませんが、軽やかで白い花が放つ光があります。香りの核となるのは「プレゼンス・アコード(内円)」で、オレンジブロッサムやガーデニアの花がメインですが、ホワイトフローラルによく見られるどっしりとした花の重みは感じません。ムスクが効いているので、透明感でパワフルな存在感を出すよう工夫されているのが特徴的です。サークル型の構造にすることで、1つの香りが他を支配的にすることなく、花々の香りが穏やかに溶け合い包み込まれるような印象を作り上げています。上品で控えめながら、自らの女性らしさを素直に肯定できる女性、その美しさが外に輝きだすようなイメージです。20代後半から30代の女性、季節は春先がおすすめです。オードパルファムもありますが、トワレの方が明るく輝きのある印象でパルファムはもう少しセンシュアルです。私の肌での持続時間は4時間程度でした。
私は先日、友人に誘われて能を観てきました。能は舞台装置や音楽がありませんし、演じられる人間の表情も能面1つです。引き算された最小の表現で、人間感情を最大に表現する日本の伝統芸能、「エバーブルーム」にも共通点を感じます。日本文化が持つ繊細さや洗練された審美眼に基づくコンセプトや表現力、香りの特徴、どれをみても、このようなフレグランスは欧米ブランドからは出てきません。このレビューをご覧の方の中で、日本ブランド香水を愛用している、知っているという方はどの程度でしょうか。資生堂の顔となるべく海外向けに販売されたフレグランスですが、日本女性が共感できる美しさ、優しさを持った香りです。海外でJapan Beautyを感じてもらうと同時に、ぜひとも多くの日本人女性に愛される香りになってほしいと思います。
レビュアー 羽賀 香織 Kaori HAGA 2017年1月